「サンジくーん!ちょっとこれの味見てー!」
「はぁ〜〜い!お待ちあれナミさんv」
「サンジ、こっちもいいかしら」
「りょ〜うか〜いv・・・・んんん!ナイスだロビンちゃん!」
「サ〜ン〜ジ〜〜!」
「うっせ!黙って待ってろ!」
などと、賑やかに繰り広げられる会話の何処に、話しかける隙があると言うのか。
In a word, please love.
海賊団としては少ないが、単なる人数としては多い方だろう(しかもごく一部を除いて大人しいとは言い難い)ここのクルー達が全員集まったこの場所で、ゾロは密かに焦っていた。
いつもより早起きした。(それでも一番最後だったが)
出された朝食も全部平らげた(これはいつもの事)
食事が終わっても食堂に居座った(何故か他のクルー達まで残っていた)
そして今に至る。
至る、のだが。
「ナミ達はともかく、なんでお前等までここにいるんだ?」
頬杖を付いて溜息混じりに呟いたゾロに、隣にいたチョッパーがくるりと瞳を回してから首を傾げる。
「だってサンジの誕生日だから」
「ああ・・・まぁそりゃそうなんだろうけどよ・・・」
的を得ている様で、実はまったく自分の疑問への答えになっていない返事に僅かに眉を寄せる。何か間違っているかと心配そうに目で訴えてくるトナカイの頭を、無言でぐしゃぐしゃと撫でたゾロは、再びこっそりと溜息をついた。
3月2日。チョッパーの言った通り、今日はサンジの誕生日だった。
毎年の事だが、この船のコックは自分の誕生日であっても他のクルーに料理を作る役目を譲ったりはしない。今年も例外ではなく、料理はサンジの役目。その代わり材料費の制限はせずに好きなだけ作らせる。そしてクルー達はそれぞれ贈り物を考える。そう決まっていたはずだった。
少々計算外だったのは波と風だ。当日には次の港に着く予定が、グランドライン特有の気候が船足を鈍らせ、間に合わなかったのだ。
当のサンジは気にしないと言っていたが、そんな事を皆が許すはずも無く。
パーティーは後日持ち越し。代わりに今日から次の港に着くまでの間、ナミとロビンは料理の手伝い(本当は全部作る予定だったが、やはりサンジが譲らなかった)男性陣は盗み食いをしないという約束をプレゼントすることにしたのだった。
つまり、ルフィ達が今この場所に全員留まっている理由にはならない。
「・・・・のに、何でいるんだよ・・・・」
不貞腐れた様にぼそりと呟いたその時、一段落したのかサンジが濡れた手を拭いながら近寄ってきた。一瞬交わった視線に口を開きかける。しかしサンジはそのままゾロの前を通り過ぎて、何やらにこやかにチョッパーに声を掛け話し始めてしまった。
ぐっと眉間に力が入るのを自覚する。
「おい、クソコッ・・・・」
「ん?ああ悪い、お前はまた後でな」
「・・・・」
更に眉間の皺が深くなった。
「何なんだよ、あいつは・・・っ」
足音も荒く甲板まで出てきたゾロは、苛立ちに任せて勢い良く腰を下ろした。
結局あれからもサンジはあちらこちらに捉まり、時には自分から寄って行って、ゾロが話しかける隙は無かった。会話途中に割り込んでも「後で」と軽くいなされる。その繰り返しで、とうとう切れてここまでやって来たのだった。
「普段はあっちからべたべたやって来るくせに・・・」
何となく面白くない。胸の奥がもやもやとして気持ち悪い。何とかしてこの気持ち悪さを追い出そうと、大きく息を吐いてみてもまるで効果は無かった。
「くそ・・・」
頭の後ろで手を組み、マストに背を預ける。
見上げた先では張られた帆が風をはらんでゆったりと船を押し進めていく。その更に上に広がる空は、真っ青な衣に陽光というアクセサリーをつけて楽しげに煌いていた。
青衣の裾を掴み取ろうと弧を描き舞い踊る海鳥の試みは悉く失敗していたが、気にする様子も無く穏やかな鳴き声を上げている。己の胸中とは対照的に、なんとも長閑な光景だった。
駆け抜ける潮風が優しく髪を撫でていく毎に、目蓋が重くなってくる。波立つ心が平穏を取り戻す事は無かったが、今はどうしようもない、とゾロは訪れる睡魔に身を委ねる事にしたのだった。
目が覚めた時、空は既に茜色の衣に着替え終わっていた。一時の休息を求める様に太陽は海の果てへと身を隠し、地上を照らす役割を月へ託す。
もうすぐ、今日が終わる。
大切な、本当に大切な日である今日が。
こんなもやもやと気持ち悪い感情を抱いたままに。
徐々に広がってくる暗色を複雑な思いでボンヤリと眺めていたゾロは、不意に耳に届いた忍び笑いに視線を巡らせた。
「寝る時までしかめっ面してたら、その内眉間の皺が取れなくなるぞ?」
くつくつと肩を揺らしているサンジを認めて、無言で睨み付ける。きつい視線を受けたサンジは、しかし一向に気にする様子も無く、緩んだ表情のままゾロの隣に腰を下ろした。
「なぁ。怒ってる?」
「・・・・別に。怒る理由がねぇ」
からかうような質問に低く返す。
「ふうん。・・・・・じゃ、拗ねてる?」
「何で俺が拗ねるんだよ」
今度は完全に否定しきれずに誤魔化したゾロに、何故かサンジは嬉しそうに笑った。
「今日俺に構って貰えなくて、さ」
「・・・・!」
もやもやとした胸中を言い当てられて、ゾロの動きが止まる。「お。当り」と指を鳴らしたサンジの満足そうな表情に、酷く居心地の悪い思いで目を逸らした。
確かに、拗ねていたのかもしれない。いつもならサンジの方から近寄って来てくれていた。たまにゾロから話しかけたときは真っ先に相手をしてくれていた。それに慣れてしまっていたのか。
他の誰かに話しかけられて笑うサンジ。悪いとは言わない。ただ少しだけ寂しい気がして、同時に少しだけ腹立たしい気がして、落ち着かなかった。
認めたくは無いが、嫉妬していた、という表現が一番相応しいだろう。
「・・・・・・あーそうだよ!くそ。笑いたきゃ笑えよ」
やけくそで吐き捨てた台詞にきょとんと目を見開いたサンジだったが、直ぐに見開いたばかりの目を細めてゆったりと微笑んだ。
「何だよ」
「ん?いや。嬉しくて、さ」
僅かに頬を染めたゾロが、軽く首を振ったサンジを不可解そうに横目で見遣り、唇を尖らせる。
どうしようもなく愛しい気持ちが溢れてくるのを感じながら、サンジは少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
「お前がさ、俺の事大切に想ってくれてるのは良く分かってるつもりなんだ」
「でもお前はあんまり言葉とか、態度とかに出ないからさ。たま〜に寂しくなるんだよね」
「勿論、目に見える形だけが全てじゃねぇってのも分かってる」
「分かってんだけどさ、時々無性に確かめたくなるんだよ」
一旦言葉を切って、そっと手を伸ばす。
触れた頬は温かく、少し冷たい指先にじんわりと染み込んでくる熱が気持ち良かった。
「お前が俺の事で拗ねたり、妬いたりしてくれるのを。俺の事好きって、傍に居たいって態度に表してくれんのを。確かめて、感じたいんだ」
言いながら指先でゾロの輪郭をなぞる。
肌の上を滑っていく感触に、ゾロは一度瞳を伏せてからそっと息を吐いた。
「だったらそう言えば良いじゃねぇか。こんな試すような真似をしねぇで」
「だって、言ったらお前はきっと俺の望む答えを返すだろ?お前、変な所で変に優しいもんな」
苦笑するサンジに意味が分からないと視線で応える。軽く首を振ったサンジは怒るなよ、と前置いてから口を開いた。
「自分から要求するんじゃ駄目なんだ。それだと、お前の言葉が本心なのかが分からなくなる」
怒るどころではない。呆れてものも言えない、とはこの事だ。
目と口を大きく開いたゾロを、情けなく眉を下げたサンジが覗き込む。いっそ垂れ下がった耳と尻尾が見えてきそうだ。
「ええっと・・・呆れられついでに白状するけど・・・」
顔色を窺いながらおずおずと切り出してくる声に、数回瞬きを繰り返してから続きを促す。
「皆には他のプレゼントも頼んでたんだ。今日だけ、俺の事一人にしないでって」
正しくは「ゾロと二人になる隙が無い様に、一人にしないで」だ。うっかり二人になってしまえば、きっとゾロのことを構ってしまうから。
ゾロが朝からずっと食堂に居てくれたのは、今日がサンジの誕生日だから。言葉にはしなくても、サンジの様にあからさまな態度には出さなくても、ゾロはそうやってさり気無く思い遣ってくれている。
けれど他のクルー達に頼んでまでも確かめたいのは、サンジの我が儘だ。
徐々に復活してきた眉間の皺に思わず肩を竦めたサンジだったが、彼には切り札となる台詞が残っていた。
ゾロの怒りが爆発する前に、慌てて言葉を継ぎ足す。
「ほら、今日は俺の誕生日だから!なんでも我が儘言っていいんだろ?」
それはゾロの誕生日にゾロ自身が言った台詞。当然サンジはその要求を呑んだし、逆に言えばサンジが要求しても問題ないはずだ。
思惑通りに、そう言った直後にゾロの表情が少しだけ和らいだ。
「ああ・・・・確かにそうだな。くっだらねえ真似してくれたが、今日は許してやる」
鼻を鳴らして偉そうに言い放つ口元は、しかし軽く緩められていた。
「許すついでに俺からも一つプレゼントをやるよ」
目の前であからさまにほっとしている男の耳をぐい、と引っ張る。突然の痛みに抗議の声が上がるのも無視して顔を寄せたゾロは、二人きりになったら言おうと朝から準備していた言葉を贈った。
「誕生日おめでとう。もしテメェが嫌だと言っても、俺はテメェから離れる気はねぇから。せいぜいそのひ弱な腹ぁ括ってかかってくるんだな」
Happy birthday SANJI! Visit
you ..a lot of happiness...
「ゾロー!クソ愛してるぜー!」
「あー・・・知ってる」
「と、ゆーことで!今夜はたっぷりサービスをお願いしたいんですけど!」
「却下」
「えええ!?何で!我が儘言っていいんだろ!?」
「我が儘を言っても良い日だとは言ったが、我が儘を聞いてもらう日だとは言ってねぇ」
「・・・・・・・・・・!!それって詐欺・・・・・・・・!!!」
2009年サン誕です〜!
・・・・・・次第にサンジがウザい子になってきている気がします、よ・・・・。
あああでもサンジはそーゆーとこ確かめたい子だと思います。そしてゾロはそんなサンジが「ウッザイなー」と思いつつも、応えちゃう。そんな感じでお願いします(何を)
あれ?サンジあんまり報われてない?いやいやそんな事ないデスよね。ハハハ
とまぁ、色々酷い事を書いた気もしますが、やっぱり最後は格好良い男なのです。サンジは。きっと。
だってゾロの旦那ですもんね!
ともあれ誕生日おめでとうサンジ!
オールブルーを目指して、ときには女性にうつつをぬかしつつ、ゾロとラブラブでいて下さい(あれ?)
(’09.3.2)
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