元々、野郎に興味は無い。自他共に認める女尊男卑。そりゃ尊敬出来る奴もいるし、面白いと思う奴もいる。 けど、それはそれ。好きだの嫌いだのいうのとは別だ。 「そう。別だ」 言い聞かせるように呟いた言葉は、その役割を十分に果たしただろうか。 今日のオヤツはナッツ入りのシフォンケーキ。綺麗にカットしたケーキを2枚の皿に並べ、ぴんと角が立った生クリームをたっぷりと乗せる。本当は果物も付けたい所だが。残念ながら出港して5日目の今日、足の早い生の果実は手元に無い。干して砂糖漬けにしたマンゴーを使い彩を添える事で良しとする。 最大限の注意を払い見た目も鮮やかに盛り付けた後、残りは適当に切り分けてそれぞれに生クリームとドライフルーツを乗せて。 「レディ達〜おやつですよ〜〜ぅ。おら!野郎共はキッチンで感激に咽びながら食え!」 トレイの上にティーセットとケーキを乗せたサンジは器用に足で扉を開けてから、甲板に居るクルー達へと声を張り上げた。 一枚だけ、同じ様に切り分けたケーキを乗せた皿を冷蔵庫の中に隠して。 女性二人に完璧な給仕をしてキッチンへ戻ったサンジを迎えたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。縦横無尽に腕を伸ばして人の皿からケーキを横取りしようとする船長に、防戦空しく大半を奪われて悲痛な叫び声を上げる船医。逞しい腕で攻撃を防ぎながらひたすら口に運ぶ船大工に、奪われた食材にこっそりとタバスコを振りかけささやかな復讐を図る狙撃手。 自分の料理を旨いと思ってくれているからこその行動であろうが、その光景を目の当たりにしたサンジは口元が引き攣ったのを自覚した。 「サンジー!お代わり!」 「・・・・・・・・・・・・・当店は只今を持ちまして閉店致しましたぁ!!!」 隙を見て船大工の皿から掠め取り口一杯に頬張った船長が、当然のようにお代わりを要求した所で閉店の口上と共に繰り出した蹴りでキッチンから追い出す。そして余っていたドライフルーツを棚から取り出して三人に分け与えると、喜色満面といった風で頬張るクルー達の様子に軽く苦笑して煙草を取り出し火を点けた。 1/2本分の灰と煙を生産した所で全員が食べ終え、口々に礼を述べながら退席していく。途中、見かけによらず何かと目端の利く船大工がサンジの分のおやつが無かった事を気遣わしげに問い掛けたが、それに「問題ない」と笑って手を振り送り出す。 「やっぱり、来なかったな」 完全に扉が閉まったのを確認してから、綺麗に食べ尽くされた皿が並ぶテーブルを眺めて呟く。冷蔵庫を開き取り出したのは、先程分けておいたケーキが乗った一枚の皿。それが示すのは姿を見せなかったこの船の剣士。 来る訳が無い。いつか自分が言ったのだ。「近付くな」と。 そして言われた男は馬鹿正直に自分からは近付こうとしない。 けれど、言った自分は。 取り出した皿を片手に、うろうろとキッチン内を彷徨う。ほんの二切れのケーキに絞った生クリーム、添えたドライフルーツ。決して重くないはずのその皿は、一歩歩く毎に重さを増していくようだった。 「近付くな」と自分が言った。 そしてその男は言われた通りに近付いてこない。 それで良いじゃないか。 それで良い筈なのに、何故。 姿が見えないとこんなにも落ち着かないのだろう。 手にした皿はとうとう片手では支えられない程の重さにまでなったような気がして、軽く舌打ちの音を立てたサンジは短くなった煙草を揉み消した。 元々男に興味は無い。尊敬出来る奴も面白いと思う奴もいたが、好きとか嫌いとか言うのはまた別だ。 じゃあ、今のこの気持ちは? 自問して、導き出されない答えに頭を抱える。 延々と己の城の中を彷徨っていた足は結局、其処から脱出する事が出来ないまま止まり、支えきれなくなった皿はテーブルの上に預けて。 遂にサンジは大きな溜息をついて、その場にしゃがみ込んだ。 自分の気持ちを読み違えやすい性格だという自覚はある。 自分が本当は何を望んでいるのか。何をしなければならないのか。 それに気付く事が出来ずに、いつも誰かに背を押してもらっているような気もする。 どうする事が一番正しいのか。分かっている筈なのに分かっていない。 なんて。 そんな事、再確認した所で何の役にも立たない。 自分では少しはマシになってきたと思っていたのに。 結局サンジに出来た事は、がしがしと頭を掻き毟り力無く呟く事だけ。 「だから、この気持ちは何なんだ」 自分の心が見えない。 ――――――見たくない。 |
お題7:みえない でした。 スイマセン。楽しいです。ぐるぐるサンジ。 もういっそ100番目、最後までぐるぐるしてもらおうかと思ったり(やめろ) でも悩むならサンジって感じなんですが、読んで下さってる方はどうなんでしょう。 ゾロにもぐるぐるして貰いたーい!とか思ったりするんでしょうか・・・・? こっそり教えて頂けると嬉しいです(笑) では最後まで読んで下さって有難うございました! (’08.5.25) 戻る |