I yearn for you and touch you.


      深夜。見張りのゾロにサンジは酒とつまみを持って差し入れに来る。
      少し話をして、適当にどつきあって。
      そうして、空になった皿をキッチンに持ち帰ったサンジは片づけが終わると、そのまま就寝する。
      それが二人の日課。


      しかし、今日。

     「あいつ・・・。いつまで起きてんだ?」

      既に片付けも終わっているだろう時間になっても、キッチンの明かりは煌々としていた。


      誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きて。
      そうして休む間もなく働き続けているサンジ。

      何時だったか、たまにはお前も休めとゾロが勧めたこともあったが、皆に料理を作ってやれないなどつまらなさ過ぎて耐えられないと
     笑って答えてきた。

      その笑顔が余りにも真っ直ぐで綺麗だと、そう思ったから。
      その時は、そうかとだけ返事をしたのだった。

     「だからって、遅くまで起きていすぎだろ・・・」

      些か不機嫌に呟いたゾロは、一度ゆっくりと周囲を見渡すと軽く息を吐き、目的の場所へと足を向けた。





     「おお・・・微妙に予想外だな・・・・」

      キッチンの扉を開いた先に広がっていた光景に、ゾロは思わずそんな感想を漏らす。

      サンジがいて、どうせレシピでも纏めているだろう。それは予想内。
      そのサンジが転寝をしていたのは予想外であった。

      だからたまには休めっていったんだ。

      テーブルの上に伸ばした腕を枕にして、すぴすぴと呑気な寝息を立てている姿に僅かに呆れて肩を落とす。
      こんな事なら見張り台にある毛布を持って来れば良かった。そんな柄にも無い考えに苦笑しながら、そっと近寄り顔を覗き込んだ。

     「・・・・・・ぷっ」

      枕代わりの腕に頬を乗せて眠っているサンジ。おそらくレシピを纏めている最中に耐え切れなくなったのだろう。
      掛けたままの眼鏡が腕に押されて妙な方向に歪んでいる。その眼鏡と腕につられて顔まで微妙に歪んでおり、普段外見に気を使っている
     男に相応しくない間抜けな表情になっていた。

     「ぶっさいくな顔」

      堪え切れずに声を殺して笑う。
      笑ってしまった後に、こうやって限界まで努力する姿に罪悪感を覚えてそっと髪を撫でた。
      サンジの手元にはなにやら書きなぐった紙が散乱している。ゾロには分からない文字。分からない内容。簡単に描かれた絵は料理の
     完成形をイメージしたものだろうか。
      そのメモを興味深げに捲るゾロの左手は無意識にサンジの髪を弄んだままだ。



      かつんと固い感触がしてメモから視線を外し、左手を見やる。
      指先に当たったのは眼鏡のフレームで、今度はそれに目を奪われた。

      初めて眼鏡を掛けたサンジを見たのは、確かアラバスタでだった。Mr.プリンスなどとふざけた名前で一同の前に現れた。
      その時はただの変装だと思っていたのだが。
      それから時々、こうやってレシピを纏める時眼鏡を掛けるサンジを見かける。

     「目、悪かったのか?」

      その疑問は、実は未だに解消されていない。
      何となく、わざわざ訊くのは気恥ずかしかったことと。
      眼鏡を掛けている時のサンジは真剣な表情で、邪魔してはいけない気がした為だ。

      薄いレンズ越しの蒼い瞳。
      それは余りにも一途に、真摯に料理に向けられていたから。
      眼鏡を掛けているサンジを見るのが実はちょっと好きだったりもする。

      そして、レンズ越しの瞳は料理にしか向けられないから。
      眼鏡を掛けているサンジを見るのが実はちょっと嫌いだったりもした。



      今、閉じられている瞳。ここで彼を起こしたらレンズ越しのあの瞳は自分に向けられるのだろうか。



      ふとそんな考えが浮かび、髪に触れたままの左手を離し、持ち上げる。
      肩を叩いて起こそうか。

      暫く逡巡した後に手を掛けたのは、腕枕のせいで微妙に位置のずれた眼鏡。

      軽く摘み、起こさないようにゆっくりと外す。
      一瞬サンジがくぐもった声を上げ身じろぎした為、びくりとする。幸い目を覚ます事は無く、ゾロは僅かに安堵の息を吐いた。

      己の手の中に納まった眼鏡。      
      それを覗いたらどんな景色が見えるだろう。




      けれどもゾロは、それを試してみようとはしなかった。

      これはサンジの料理に対する真剣な思いの象徴。
      実はゾロがちょっと嫌いだけれども、ちょっと好きなサンジのもの。だから、自分が軽い気持ちで掛けたりは出来ない。


     「いつも、美味いメシ、ありがとな」


      両手で包み込んだ眼鏡に恭しく口付けを落とし、そっとテーブルの上に戻す。
      そうして、未だ穏やかに眠っているサンジに向かって柔らかい笑みを浮かべると、身を翻してキッチンを後にした。
     

 
      満天の星空。静かな夜。
      見張り台から降りて、二人で毛布に包まって眠ってしまってもきっと問題ないだろう。



      とっくに目覚めていたサンジが、懸命に顔が赤くなるのを隠し、必死に襲い掛からないように耐えていた事など気付かないまま
     ゾロはのんびりと空を見上げもう一度笑みを浮かべると、目的のものを取りに見張り台へと上っていった。




                                        END



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      1100カウントリクです。
       「眼鏡のサンジにときめくゾロ」・・・・でしたが。
       すいません。拙宅のゾロ。なかなかときめいてくれません(汗)
       むしろサンジがときめいてる!!
       でもゾロのサンジに対する愛情、当社比3割増しですよ?(3割て)
       そしてこの後、毛布に包まった時点で耐えられなくなったサンジに襲われます(笑)

       リクに添えていない気がひしひしと・・・・すいません;
       お叱り、リテイク謹んでお受けいたします^^;;

       リクしてくださった匿名さん(そういえばお名前を伺ってなかった!)のみお持ち帰りできます。
       (2008.3.11)

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