人殺し。

 私の恋人だったのに。
 俺の息子だったのに。
 あれで気の良い優しい人だったのに。

 人殺し。




 ―――――うるせぇな。




 ありがとう。

 アンタが斬ってくれて助かった。
 娘の仇だった。
 町を壊して回っていたんだ。

 ありがとう。




 ―――――うるせぇよ。




 俺は、お前を仲間にするって決めたんだ!




 ・・・・・ああ。初めてだな。何の翳りも無い真っ直ぐな声。
 お前の言葉は嫌じゃねぇ。

 そうだな。
 お前となら一緒に歩いていっても、いいかもしれねぇよ・・・・・・。



Your sounding voice




「ゾロー!!起きろー!!」
「ぐえ!!」

 麗らかな日差しの中。太陽の恩恵を一身に享けた芝生からは暖かく、爽やかな香りがして心地良い。このままこの緑と同化してしまえば、どれだけ気持ち良いだろう。
 甲板に大の字になりのんびりと昼寝をしていたゾロは、突然腹部を襲った衝撃に苦悶の声を上げた。

「んん?大丈夫かー?」

 涙目になりげほげほと咳き込むゾロに、その原因となった人物は腹の上に乗り上げたままひょこんと首を傾げてみせた。

 
「ルフィ・・・お前か・・・・」
「おう!俺だ!」

 漸く呼吸を整え溜息と共に名前を呼ぶと、ルフィは得意そうにししし、と独特の笑い声を上げる。
 その無邪気な笑顔に怒る気力を根こそぎ奪われ、ゾロは再び溜息を付き腹筋の力だけで上体を起こした。
 その為ゾロの上から転がり落ちたルフィが二転、三転として芝生の上に落ち着き、楽しそうに笑う。

「おおお〜!ゾロ!もう一回!」
「アホ。断る」
「何だよー!けちー」

 一つ大きな欠伸をして胡坐をかくと、一転して不服そうに頬を膨らませる。
 宥める様に腕を伸ばし頭をぐしゃぐしゃと掻き回すと、再び楽しそうに笑う。

「大体お前、さっきまでウソップたちと遊んでただろうが」

 ころころと変わる表情が何となく面白くて、両手を使って更に力一杯掻き回す。
 擽ったそうに笑ったルフィはその手を逃れる様に身を捩ると、ゾロの膝の上に頭を乗せごろりと横になった。
 一陣の風が駆け抜けて、黒髪を揺らす。傍に転がっている麦藁帽子が飛び去ってしまわないか、そんな事が妙に気になった。

「ん。遊んでたけどな。ゾロが寝てるのが見えたから」
「だから邪魔しに来たって?」
「おう!」

 あまりの理由に、些か不機嫌そうに聞くゾロに悪びれた様子も無く頷く。

「アホか」

 言って、ぺちんと額を叩くと「痛ぇ」と嘯いて両手で額を押さえる。

 その姿勢のままゾロを見上げていたルフィは、再度笑顔を浮かべた。

「ルフィ?」

 その笑顔は先程までの無邪気なものではなく、窺い知る事の出来ない深い思いが潜んでいるようで。
 ゾロは思わず引き込まれそうになりながら、少年の名前を呼ぶ。






「だって、ゾロ。すげぇ苦しそうだったから」






 真っ直ぐに見上げてくる黒曜石の瞳は、陽の光さえ吸い込んでなお深く。
 軽く息を呑んだゾロは、取り繕う事も忘れてその瞳に見入った


「ゾロ」


 僅かに目を細めて、視線を外したルフィがのんびりと口を開く。


「俺は、お前を仲間にするって決めたんだ」


 それはいつかに聞いた、何の翳りも無い真っ直ぐな声。


「今までのお前がどうとか、他人がどう言ってたかなんて関係ない。俺が、お前を。仲間にしたいと思ったんだ」


 そしていつだって前を見て、曇る事のない瞳。


「お前はお前の思うままに進めばいい。俺は俺の好きなように進むぞ」


 いつだってクルー達の腕を取り、力強く引いて行く手。


「・・・・・ああ。そうだな」
 ちらりと寄越された視線に、ふわりと笑う。それだけで十分だった。
 それ以上の会話は交わされない。交わす必要もない。

 それに満足したのか、両手を額から外したルフィがうとうとと目を細め始めた。

「これじゃ、俺が眠れねぇじゃねえか・・・」

 苦笑して、己の膝を枕にしたまま本格的に昼寝の体制に入った少年の顔の上に、せめてもの日除けにと傍に転がってままの麦藁帽子を被せる。
 
「俺は俺の思うままに・・・・か」

 そっと口内で反芻した言葉は、まるで全てを可能にする魔法の言葉のようだ。
 今まで煩わしく、五月蝿いとしか思っていなかった周囲の声。非難、的外れな感謝。呪詛の様に絡み付いてくるそれらを一斉に吹き飛ばしたのは、この少年の声だ。



「そうだな。お前と一緒に歩いていくのも、いいかもしれねぇよ」



 目指すものは違うけれども。
 追い求める心は同じだから。

 あの日から変わらず、この少年の声は心地良い。

 
 振り仰いだ空には海鳥が二羽、戯れる様に飛んでいる。
 ゆったりと微笑んだゾロは、いつまでもその海鳥の行方を目で追っていた。









 そんな穏やかな光景を恨めしそうに見つめる男が一人。

「くっそ、あの二人。ちょっと目を離すと直ぐにいちゃいちゃいちゃいちゃしやがって・・・!」

 先程からラウンジの窓から愛しい恋人の様子を伺っていたサンジは、いかにも不機嫌そうにぎりぎりと煙草のフィルターを噛み締めた。
 何か飲み物を貰おうと医務室からラウンジへとやってきたチョッパーは、その様子を見て頼む事は諦め自分でコップを取り出し水を注ぐ。そうして再び医務室へと戻る際、未だ外の様子を伺うサンジの背後を通り過ぎながらぼそりと呟いた。


「・・・・許すのも、男の度量だよ」


 思わず煙草を取り落としたサンジが憤然と振り向いた時には、賢明な船医は脱兎の如く己の城へと逃げ込んだ後であった。




     Happy birthday LUFFY! Visit you ..a lot of happiness...




「・・・・そろそろ起きねぇと、メシ食い損ねるぞ」
「・・・・は!肉!!」
「ははっ。ほら、行くぞ」
「おう!あ、後でサンジに謝ってやろうかな〜」
「は?何だよ、それ」
「しししし!秘密だ!」


                    END



2008年ル誕でした。
ルゾロじゃありませんよ?ましてゾロルでは。
船長は全部お見通しって事(笑)
もうね・・・流石のゾロもルフィの男前には敵わないと思ったり。
皆の要、皆の支え。ルフィさえいれば大丈夫って思わせてくれる男前船長さん。
大好きだー・・・。

本当に本当に、誕生日おめでとう!
(’08.5.5)

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