何なんだよ。
何なんだよ。何なんだよ。ちくしょう。
俺、なんかしたか?それなら、そうと言ってくれればさ。いいじゃねぇか。
皆して俺の事無視するなんて、酷いじゃないか。
君の弱さは、君のもの。君の強さは、僕達のもの。
昨日の夜までは皆、普通だったよな?
チョッパーだってルフィだって、俺の新しい発明のことを話したら目を輝かせて、見せろって五月蝿い位だった。だから明日(つまり今日だ)見せてやるって約束したのにさ。
「ウソップ!今日は俺達に近付くな!」
――――だってさ。
ナミとロビンもずっと女部屋に篭ったままで、声をかけても追い返されるし。
フランキーも今度一緒に兵器の開発や船の改造について話そうって言ってたのに、俺を見ると逃げちまうし。
サンジの奴なんて、ちょっと飲み物もらおうとキッチンに入っただけで問答無用に蹴り出しやがったし!
酷いよな。仲間じゃないのかよ、俺達。
それとも。もう俺みたいなお荷物は要らないって事か?
でもこんなに露骨に避けること無いだろ?何が駄目なのか言ってくれたっていいじゃないか。
ちくしょう。
何処にも居場所が無くて、俺はふらふらと甲板に向かった。
こんなにもグレイな俺の心とは正反対に、空は嫌味な位の快晴。呑気に鳴きながら飛んでいる海鳥も何だか憎らしく思えた。
何も今日じゃなくたって。
そうだよ。今日じゃなくたっていいのに。
だってさ。今日は、俺の。
俺の――――。
ジワリと霞む視界に慌てて目を擦る。
最悪な気分だ。
ほんの少し、憂さ晴らしに芝生を蹴り付ける。千切れて舞った葉の行方をぼんやりと目で追う。その先に、今しがた蹴り付けた芝生と同じ色の髪の持ち主が、マストに背を預けて眠っていた。
「ゾ・・・・・」
思わず声をかけそうになり、慌てて口を噤む。また避けられたりしたらたまらねぇよ。
軽く舌打ちして背を向けたその時。
「おー。ウソップ」
のんびりとした声が掛けられた。
驚いて振り向いた先には、大欠伸しているゾロ。
「今日も良い天気だなぁ。偶にはお前も昼寝してみろよ」
そう言って自分の隣を軽く叩いてみせる。
とてもそんな気分じゃなかったけど、現金なもので声を掛けられた事に少し気持ちを上向きにした俺は、大人しくそれに従った。
満足そうに笑ったゾロは再び大きな欠伸をして目を閉じる。胡坐をかいた膝の隣には三本の刀が綺麗に並べてあった。
何となくそれを横目で見遣りながら、俺はこっそりと溜息を付いた。
俺も、ゾロみたいに強ければよかったのに。
そりゃ普段は昼寝ばかりで、町に行けばすぐに迷子になる奴だけど。
何処までも真っ直ぐ、自分を持っていて。周りの声になんて振り回されたりしないで。そして一人でも生きていけるほどの強さを持っている。
俺にもそんな強さがあれば良かったのに。
せっかく上向きになった気持ちは、また急降下だ。
膝を抱えて、芝生を一つまみ千切る。そしてまた、溜息。
「なぁ、ウソップ」
眠ったと思っていたゾロは起きていたらしい。もう驚く事も面倒で、のろのろとゾロに視線をやると、真っ直ぐに俺の方を見つめていた。
頬を掻き、おもむろに奴が口にした言葉は。
「お前ってさ。弱いよな」
だと。
何だよ。何だってんだよ!
俺の中で何かが切れた音が、した。
「何だよ!そんな事、分かってるよ!」
「は?お、おい。何怒ってんだよ?」
突然大声を上げた俺に、驚いたように目を見開くゾロ。
八つ当たりだと、分かっている。けど、朝から皆に避けられて落ち込んでいる時にそんな台詞、吐く事無いじゃないか!
一度溢れ出した言葉は、止める事が出来なかった。
「そりゃ俺はお前らみたいに強くないさ!すぐ逃げ出しちまうし、力もねぇし!お荷物だって思うんなら、そう言えばいいだろ!」
俺なんかいらないって思うんだったら、そう言えばいいじゃないか。
叫びながら自分の頬が冷たく濡れているのを感じる。
ああ、もう。何でこんなに簡単に泣いちまうんだ、俺は。
落ち込む気持ちは底が無くて。せめても嗚咽が漏れないように唇を噛み締める。
「ばーか」
呆れた様に言ってゾロが立ち上がる気配がした。
どうせ馬鹿だよ。もうほっといてくれよ。
「弱いって、そういう意味で言ったんじゃねぇよ」
ああ、そうかい。・・・・・・・って、え?
振り仰いだ俺の前で、ゾロは何だか偉そうに腕を組んで立っていた。
「弱いって言ったのは、お前がそうやっておまえ自身を認めないってことに対してだ」
俺が、俺自身を?
訳わかんねぇ。ルフィも良くわかんねぇこと言うけど、ゾロだってわかんねぇよ。ちくしょ。頬が冷てぇなぁ。
手の平で顔を擦る俺の前にしゃがんだゾロは、拾った刀の柄で頭を小突いてきた。
・・・・痛ぇよ。
「お前、もう少し自分を信じろよな。お前は弱くねぇだろ」
だから、訳わかんねぇよ。さっき弱いって言ったじゃねぇか。
「村の為に一人で海賊に立ち向かおうとしたのは誰だ?ナミの為に魚人と戦ったのは?メリー号の為にルフィとやり合ったのは?ロビンの為にあの島に乗り込んだのは?」
俺だよ。それは俺だ。でも全部、一人じゃ駄目だった。
「そりゃな。俺みたいな強さじゃねぇけど。誰かの為に、何かの為に、戦う事が出来るだろう?逃げそうになっても、本当に逃げた事は無いだろうが」
だって、皆の為だったから。俺なんてたかが知れてるけどさ。
「お前の弱い所は、そういう自分の強さを認めてやれねぇところだよ」
俺の、強さ?
「認めて、信じてみろよ。自分の事。自分の心の強さ。本当に弱いだけの奴なら、俺達の仲間になんてなれねぇだろうが」
――――仲間。
「・・・・・俺、仲間、か?」
自分でも相当間抜けな質問だって分かってるよ。そんな呆れた様に溜息付くなって。
でもさ。だって。
「だってよ。朝からさ・・・皆俺のこと避けてるしさ」
呟いた言葉に、ちらりと何処かに視線を向けたゾロは「よし!」と勢いよく立ち上がって俺に手を差し出した。
「んじゃ、行くか!」
は?どこに?つーか、今までの会話はなんだったんだよ。
頭の中は疑問符だらけだったが、余りにもゾロがにっかりと笑って見せるもんだから、思わず手をとり立ち上がる。
向かった先はサンジに蹴り出されたキッチン。尻込みする俺をぐいぐいと押したゾロは、扉を開けろと目で告げてきた。
恐る恐る扉を開けると。
ぱん!ぱん!ぱぁん!
派手な音と舞い散る紙吹雪。飾り付けられた室内。笑顔で並んでいるクルー達。
「「「「誕生日おめでとう!ウソップ!」」」」
口々に告げられたのは、俺を祝う言葉。
何だ。
何だよ。避けられてると思ったのは、こういう事かよう。
また視界を霞ませたそれは、今度は冷たくなくて。深く落ち込んでいた心は、とても温かいものに満たされていた。
Happy birthday USOPPU! Visit you ..a lot
of happiness...
「ところでゾロは何の役割だったんだよ?」
「んあ?お前の足止め」
「・・・・・・・。その相手に、あれだけ厳しい事言うか?普通」
「別に厳しくねぇだろ。俺からのプレゼントだ」
「・・・・・・・・・・仕方ねぇから、受け取ってやるよ」
うん。もっと自分を信じてみる。そんで、もっと強くなる。
なんたって俺はキャプテン・ウソップ!偉大な海の戦士になる男だからな!
END |