全然すごくなんかない。
 
全然特別なんかじゃない。
 
裏表がない人間なんて。


 きっと、何処にも、居ない。





 それは君と僕との秘密。






「・・・・・・?ここ、何処だ?」
 気が付いたら、真っ暗な闇の中にいた。
 右も左も上も下も分からない、真の闇。ただ足の下には硬い感触があって、ああ立ってるんだ、と感じた。
「あれ・・・。俺、さっきまで何やってたんだっけ・・・・」
 確か学校が終わって、何時もの様にみんなとテレビの中にいく相談をしてて。

 テレビの中、に。

 あれ・・・・?テレビに入って、それから何処に行くつもりだったんだっけ?
 誰を助けないといけなかったんだっけ?

 思い出せない。


 「
でも、いかなきゃ・・・。皆待ってる。俺が行かないと、皆心配、する・・・」
 呟いて踏み出そうとした足は、けれど鉛のように重くて思うように動かせなかった。
「なん、で・・・・っ!動けよ!俺が行かなきゃ・・・・!」
 
ピクリとも動かない足に、焦燥が募る。
 何度踏み出そうとしても動かない足を叱咤しようと腕を振り上げたその時、見通せない闇の奥から軽薄な笑い声が響いた。


「何を焦ってるんだい?ああ、早く皆の所へ戻りたい?」
「・・・・・・・・誰」
「そうだよな。戻りたいよな。大事な大事な仲間だもんな。―――お前の正体も知らずに頼ってくれる大事な、ね?」

「誰!」


 不快な声音で言い募る人物の姿を、見止める事が出来ない事に苛付いて語気を強める。けれど方向も分からないこの空間で闇雲に怒鳴った所で、相手が怯むどころか気にもしないだろう。
 その証拠に、相手はくつくつと嫌な笑いを漏らして続けた。

「何で怒るわけ?本当の事だろ?なーんにも知らないでお前に懐いちゃってる、おめでたいダイジなナカマ、だろ?」

「・・・・・どういう、意味だ」

 ぎり、と唇を噛み締めて低く呻く。
 それでも声は止まらなかった。

「どうもこうもそのまんまさ。分からない振りをするなら、きちんと教えてあげるけど?」

 嘲る様な笑声と共に、周囲の闇がざわりと蠢いた気がした。
 僅かな眩暈と嘔吐感を覚えて額を押さえる。思わず瞳を閉じた俺の耳に、大事な彼等の声が飛び込んできた。


『やっぱり先輩ってすげーよ!』

『君がいれば、なんか大丈夫って思えるんだよね』

『先輩は他の人とはちょっと違う。特別な雰囲気っていうか・・・安心する感じ』

『さすがセンセイ!』

『君に出会えて・・・・良かった』



『お前は俺の、特別、だ』



 響いては消えていく仲間たちの声。なのに温かく感じる筈のそれらは、何故かひどく心に突き刺さった。
 
瞬間的な痛みを覚えて押さえた胸から、どろりとしたものが流れて出てくる。
「はっはぁ!ほんと、慕われてるね『リーダー』さん?」
 闇の中である筈なのに目に映る、手の平を染める黒い液体。それを呆然と見下ろした瞬間、再び先程と同じ耳障りな声が響き渡った。

「皆の頼れるリーダー。いつだって冷静で強くて優しい自慢のリーダー。・・・・・くくく」
「・・・・・・なにが、おかしい」
「くくく・・・・はははは!!これが笑わずにいられるかよお!」

 牽制したつもりの俺の声は酷く震えていて。
 当然、それを感じ取っただろう相手は、突然高笑いを上げて下卑た口調で叫んだ。

「み〜んな素直に信じちゃってさあ?『かっこいいリーダー』『最高のリーダー』本気でそう思ってるんだぜエ!?」
「・・・・・黙れ」
「皆知らないんだよなぁ?そのリーダーさんが腹ん中じゃサイテーな事考えてるんだってなあ?」
「黙れ」
「うだうだとウザイ悩み事言ってくんじゃねぇよってさ。こういう風に答えてやれば満足かよってさ!あ〜あ。そんな外面に騙されてほいほい懐いちゃうなんてなぁ。カワイソーだよなぁ」
「黙れ!!」

 次々と突き付けられる言葉に、とうとう耐え切れずに声を張り上げる。
 情け無い位に悲痛な俺の叫びが空気を揺るがすと、その波に打たれた様に響く笑声がぴたりと止んだ。
 吸い込む空気が重く纏わり付いて、肺を侵食していく。肩で息をする俺に、今度は不気味な程静かな声が降り注いできた。

「何、図星指されて怒った?でもさ、仕方ないよな。お前が上手い事隠してる本音なんて、丸分かりなんだから」

「・・・・・・・お前は、誰だ。なんで」
 そんな、分かった様な口で。

 背中を嫌な汗が流れ落ちていく。
 重く、粘着いた空気が肺を締め付ける。

「誰?なんで?・・・・・そんなの分かっているだろう?」

 立っている事すら困難で、俯き崩れ落ちようとする俺の頬に、何かが触れてきた。
 指先が少し硬い、ひやりとした手の感触。酷く見知っているような、その手に顎を持ち上げられる。
 されるがままに上向いて見開いた俺の目に映ったのは。

「俺はお前。お前は俺。・・・・・そうだろう?」

 闇に浮かび上がった、口の端を持ち上げて冷たく笑っている、俺自身。
 そして一層冷たく輝く金色の、目。

「―――――――ッ!!」

 放った絶叫は、音を伴わずに深い闇の奥へと吸い込まれていった。











「・・・・・い!おい!」
 がくがくと肩を揺さぶられ、はっと覚醒する。思わず振り解こうとした手は、先とは違い暖かかった。
 のろのろと視線を上げると、そこに居たのは大切な人。
 ―――――大切だと思っている筈の、人。

「おい!月森!大丈夫か!?」
「よ・・・・すけ・・・?」

 盛大に眉を寄せて覗き込むその人物の名を呼ぶと、相手はほっとしたように口元を緩めた。
「良かった〜・・・・」
「・・・・・ど、したの」
 
肩に乗せた手をずるずると滑り落としてがっくりと項垂れた陽介が、なにやら酷く安心したかのように大きく息を吐き出す。それから意味が分からずに瞬きを繰り返す俺を上目遣いで見上げて、困った様に笑った。
「どうしたの、じゃねぇよ。何回電話しても出ないし、心配になって家に来てみりゃお前、玄関前で蹲って動かないし。心配したんだぞ?」
「あ、れ・・・?ほんとだ。なんでだろ」
 視線を巡らせれば、確かにそこは家の前で。とっくに日は落ちて、道端の街灯がささやかに周囲を照らしているばかりだった。
「おいおい。居眠りしてた、とか言うオチじゃないだろうな。大丈夫か?」
「ああうん。大丈夫。ごめんな、心配かけて」
 軽い掛け声と共に立ち上がった陽介が、苦笑しながら手を伸ばしてくる。つかまって立ち上がりながら、俺は自分の身体が酷く重い事に気が付いた。

 そんなに疲れるような事をしただろうか。
 いや、それよりも。今まで俺は、もっと別の場所に居なかっただろうか。

 霞掛かった記憶を呼び戻そうと緩く頭を振る。と、その衝撃にすら耐え切れずに身体が傾いだ。
「お、おい!」
 慌てた様な陽介の声。再び身体を支えてくれた腕は温かくて。
「本当に大丈夫か?無理すんなよ?お前が居てくれないと、俺達てんで駄目なんだからさ」
 覗き込む瞳は純粋な心配と信頼に溢れていて。



 ・・・・・・・・酷く、疎ましかった。



「・・・・・離して、陽介」
 添えられた腕を押し返す俺の手は、きっとその気持ちを伝えてしまっている。戸惑いながら離れていく彼の腕と、下げられた眉に僅かに心が痛んだけれど、それよりも湧き出るどす黒い感情が抑えられなかった。

 だって、思い出した。
 思い出したんだ。

 本当の俺。
 隠して、閉じ込めて、見ないようにしていた俺自身。
 けれど見付けてしまった。閉ざしていた扉の鍵は壊れてしまった。

「俺は、お前たちが思ってるような人間じゃ、ない」

 口の端から零れ落ちる声が震えている理由は何だろう。
 今更に自らの影に気付いた事への自嘲か。
 気付かない振りをして皆の信頼を受けていた事への悔恨か。

 ――――気付きもしないで純粋に慕ってくる仲間達への侮蔑か。

「月森?」
「特別とか、そんな出来た人間じゃ、ないんだ・・・・!」

 恐る恐る伸ばされる手を振り払い叫ぶ。びくりと肩を揺らした陽介は、行き場を失った手を自分の胸元に引き寄せて押し黙った。
 ああ、ごめん。ごめんな。でも。
 辛そうに歪められた陽介の顔を見ても、傷付いた様に握り締められた手を見ても、言葉にして謝る事なんか出来ない。
 最低だ。結局俺は自分を守りたくて。自分の心だけを守り通したくて。大切だと思っている筈の人すらもこうして傷付けている。
 なんて、醜いんだろう。
 片手で顔を覆う。今、俺の口から漏れる掠れた笑いは間違いなく自嘲。
 これで失った。自分の心を優先させた結果、俺は仲間を、目の前の人物を失う。

 力を失い一歩退く。背中に固い感触がしたと同時にガシャンと耳障りな音がした。ぶつかった玄関の扉が上げた抗議の音だと知って、そのままずり落ちる様に腰を落とす。見下ろした俺の足は、滑稽なほど震えていた。
 とんでもない醜態に俯いて再び自嘲の笑みを浮かべた時、足元が暗く翳った。そして視界に入り込んできたのは、たった今傷付けた人の靴。
 罵られるだろうか。それとも殴られるだろうか。どちらでも良い。それで彼の気が済むのなら。
 けれど、目を伏せて待つ俺に与えられたのはそのどちらでも無く。

 温かな、温かな抱擁。

「ごめん。分かってるよ。・・・・・ごめんな」
「陽介・・・・?」

 思いがけない言葉に戸惑う。
 俺の肩に顔を埋める様にして抱き締めてきた彼の名をそっと呼ぶと、回された腕に更に力が込められた。

「お前、いつも笑ってくれるから。笑って背中押してくれるから、つい甘えちまって」
「・・・・・それ、は」

 皆の為じゃ、無い。
 陽介の為だけじゃ、無かった。

 言い淀む俺に、陽介はゆっくりと顔を上げて泣き笑いの様な表情を浮かべた。

「うん。分かってる。嫌だって、面倒臭いって思っててもいいんだ。ウザイ奴だなとか、そんな事、なんでも」

「・・・・・・だから俺は」

 リーダーなんて柄じゃない。本当は弱くて、卑怯で、情けない人間なんだ。
 そう言うつもりで開いた口は、くしゃりと髪を掻き混ぜる優しい手に遮られた。

「だけど、お前は聞いてくれただろう?本当はそんな気なかったかもだけど、それでも聞いて、俺たちが答え出すまで傍にいてくれて。それだけで俺たちは、俺は、救われてたんだ」
「陽介」
「いつだって離れないでいてくれた。それだけで、嬉しいよ。・・・・けど、ごめんな。気付いてやれなくて」
「陽介」
「そりゃ、悩んだり迷ったりするよな。誰だって。―――お前だって」

 そんなことにも気付かなかったなんてな、と苦笑して再び謝罪の言葉を口にした陽介は、両腕を下ろしてごく軽く俺の胸を叩く。

「言っていいんだ。どんなイタイ事だって。それがお前の気持ちなら、全部受け止めたい。・・・・受け止める自信がある」
「よう、すけ」

 俺に触れた暖かい手も、向けられた視線も、もう疎ましいとは感じなかった。






「・・・・居ないんだ。奈々子も、叔父さんも。家に帰っても誰も居ない。あの温かかった家が、ないんだ」
「うん」
「怖いんだ。このまま二人とも帰ってこなかったら・・って。この場所が壊れてしまったらって・・・」
「うん」
「奈々子を助けられなかったらどうしようって。叔父さんがこのままいなくなってしまったらどうしようって。怖くて、堪らないんだ・・・」

 促されるままにポツリポツリと話し始める。静かに相槌を打ってくれる陽介。
 誰にも言えないと思った。リーダーがこんなに怯えているなんて、知られるわけにはいかないと。
 馬鹿げた虚勢。
 それでも、陽介は笑ったりせずに最後まで聞いてくれていた。

「大丈夫。大丈夫だ。お前は一人じゃないだろ?俺たちがいる。何があったって絶対奈々子ちゃんを助けてみせる。だから、大丈夫だ」

 言い終えて細く息を吐く俺に、陽介が笑う。その言葉に、胸の奥に蠢いていた闇が一気に晴れたような気がした。

 一人じゃない。そんな簡単な事も忘れていたなんて。
 一体何時から一人で戦っているような気になっていたんだろう。何時でも、皆は傍に居てくれたのに。
 そう、だから影が出たんだ。
 当たり前のことも忘れて、愚かしいほど傲慢に振舞っていたから。
 情けない所を必死に隠そうと、馬鹿みたいに突っ走っていたから。


 知ってしまえば簡単な事だった。


「・・・・・・・ごめん。少し、落ち着いた。ありがとう」
「そっか?」
「ん・・・・。ごめんな。がっかりしただろ。こんな情けない奴がリーダーなんて」

 恐る恐る陽介を見上げると、彼は酷く呆れた顔をしていた。
 何か変な事を言っただろうか。自分の言葉を反芻してみるが、取り立てておかしな事を言った記憶は無い(情けない事ならいっぱい言ったけど)
「ようす・・・・いって!!」
 名前を呼ぼうとした瞬間、額にガツンと衝撃が走り、反射的に目を閉じて叫ぶ。ひりひりする額はけれど温かくて、どうやら陽介に頭突きされたらしい事だけ理解した。
「っつう・・・・何す・・・」
 てゆうか、本気で痛い。何、この攻撃。や、でも取り敢えずはこの鈍器を俺の頭から離して欲しい。
 けれど、逃れようとした頭は何故かがっしりと陽介の両手で固定されて、動かす事が出来ない。抗議しようと開いた瞳の先に、思いがけず優しい表情を浮かべた彼を見止めた俺は、逃れる事も忘れて息を呑んだ。

「ばぁか。逆だろ」
「・・・・・?」

 頭突きの体勢のまま、陽介が笑う。

「不安でどーしょもなくなるくらい、誰かを大事に思える奴がリーダーでよかったと思ってるよ」
「陽介・・・・・うん。ありがとう」

 ぶつけられた額はまだひりひりと痛んだけれど、そこから彼の気持ちが流れ込んでくるような気がした。
 ふ、と肩の力が抜ける。「よし」と呟いて離れた陽介の額は、頭突きの衝撃で当然赤くなっていて。俺は髪に隠れているけれど、多分同じ様に赤くなっている筈で。
 なんだかそれが妙に可笑しくて、ほんの少し、二人で笑った。







 ひとしきり二人で笑った後に、いつまでも外に居るのもなんだからと彼を家に招き入れた。取り敢えずコーヒーでもと思い、食器棚に手を伸ばす。棚の中には叔父さんの青いカップと、奈々子のピンクのカップ。

 そう言えば、叔父さんが入院してからコーヒーを飲んでいない。「俺の仕事だから」と少し照れくさそうに三人分のコーヒーを入れる後姿が浮んで、辛くて入れる気がしなかったし飲みたいとも思わなかったから。
 今だって少し辛い。でも叔父さんも奈々子も必ず此処に戻ってくるから。それまでの間は自分で入れよう。「代わりにやっておきましたから」って言ったら、叔父さんはきっと「これからは俺がやる」と苦笑して、この手からカップを取り上げてくれるだろう。
 その為に、奈々子はきっと助けてみせる。
「月森?」
 棚の前から動かない俺を不思議に思ったんだろう、陽介に名前を呼ばれて我に返る。
「なんでもないよ。ちょっと待って」
 ひっそりと苦笑して、二人のカップを押し遣る。それから来客用のカップを二つ取り出して、漸く俺はコーヒーを入れ始めた。




「な、こうやって言われんのは嫌かもだけど、やっぱりお前は特別だよ。俺の『特別』だ。だから頼られて嬉しい。情けねーとこ見せてくれて嬉しい。そう思うよ」

 湯気の立つカップを受け取った陽介が、息を吹きかけてコーヒーを冷ましながら突然ポツリと呟いた。
 初めて自分で入れたコーヒーは少し苦くて、砂糖を追加しながら彼の言葉をゆっくりと噛み砕く。あれほど重く感じた「特別」の言葉が、今は全然辛くない。
 それは、きっと。

「・・・・そう、だな。きっと俺も嬉しかった。そういうトコ、見せてくれるのが」

 皆が俺にとって大切だから。
 そして、陽介が俺の「特別」だから。
 本心を隠していたけれど、支えになりたいと思ったのも頼られて嬉しかったのも本当だ。

「だろ?だからお前は俺の『特別』で、俺はお前の『特別』だ」
「ん・・・・・そう思うと『特別』って悪くないかもな」

 陽介の言葉にゆったりと微笑んで答えると、大きな頷きが返ってきた。

 純粋に慕ってくれる事。ただ大切だと思う事。
 醜い部分も全部含めて理解して受け入れたいと思った事。
 全部、本当。
 
それを示してくれたのは陽介だ。そして実行してくれたのも。

「ありがと、陽介」
 精一杯の感謝を込めた俺の言葉に、陽介は満面の笑みを浮かべた。

 なんなんだ、今日の陽介はやたらと格好良い。ガッカリ王子なんて汚名は返上なのか。
 まじまじと見詰める俺に一層得意そうに笑った陽介は、次の瞬間、とんでもない台詞を吐いてくれた。


「ま、なんたってお前は俺の相棒だしな!」


 ・・・・・前言撤回。やっぱりコイツはガッカリ王子だ。
 何、この空気の読めなさ。
 かくりとコケた俺に首を傾げる彼は、本気で分かってない。呆れた顔をするのは、今度は俺の番だった。

「馬鹿ヨースケ」
「んな!?」

 じっとりと見詰めて溜息を零せば、途端抗議の声を上げる。
 ああ、本当に分かってないよ。まあそれでこそ陽介なんだけど。そういう所もいいな、と思うんだけどね?
 納得の行く理由を要求する!とか騒ぐ彼に我慢できずにくすりと笑う。

「そういう時は『相棒』じゃなくて『恋人』だろ?」
「・・・・・・!!」


 自分から理由を求めたくせに、いざ答えると途端に真っ赤になる彼が、ひどく可愛く思えた。





「と、いうことで、キスして良い?」
 カップを置いてずい、と身を乗り出すと、陽介は面白い位に慌てた。
「おおおおおま・・・!いきなり復活かよ!つか平気な顔してトンデモ発言だな!」
 トンデモ発言とは失礼な。大体復活させたのは陽介だし。
「だって、甘えてもいいって言ったのは陽介だろ?」
「そ、そりゃ・・・!」
「・・・・・・駄目?」
 ほんの少し首を傾げて見詰めると、今まで腕を振り回したりおろおろと視線を彷徨わせたりと挙動不審だった陽介がぐっと息を詰まらせた。

「〜〜〜〜〜〜!!!あーもう!!駄目なわけねーだろ!」

 
そう言って髪を掻き毟り、ひとつ唸った後に俺の胸倉を掴んで引き寄せた。
 照れ隠しなのかきつく引き結んだ唇が触れたのはほんの一瞬だったけど、それだけで温かい気持ちが胸に広がってきて、鼻の奥がつんと痛んだ。

 いつかの彼じゃないけれど、俺の涙腺は壊れてしまったんじゃないだろうか。
 ただ結構負けず嫌いな性格の俺としては、それを知られたくなくて、急いで離れようとする陽介を力いっぱい抱き寄せて肩口に顔を埋めた。

「・・・・・甘えるのって結構良いかもね」
「はぁ・・・実はイイ性格してんのな、お前」
 とうとう逃げ出す事は諦めたらしい。溜息を吐きながら俺の背中をぽすぽすと叩く陽介の手が酷く優しい。
「嫌になった?」
「んなわけねーだろ。ばーか」
「それは良かった。ついでに言えば、俺我が儘だし。後、独占欲強いし。一生手放さないつもりだから、覚悟してて」
「あーはいはい。その辺は俺も同じだから大丈夫」
 軽く笑った気配が顔を埋めた肩越しに伝わってくる。もう一度強く抱き締めると、応えるように陽介の腕の力も強くなった。

 
全身で感じる陽介の温もりが心地良い。次第に重くなってくる目蓋に、最近良く眠れていなかった事を思い出す。
 うん。今日は良く眠れそうだ。ついでだから陽介にも泊まっていってもらおう。

 
さて、何と言って引き留めようか。
 色々と口実を考えてみても、多分結局はストレートに頼むんだろう。そして多分陽介は呆れながらも了承してくれるだろう。
 そんな事を考えながらも、今はただこの心地良さをもっと味わっていたくて、俺はそっと瞳を閉じたのだった。









 きっとこれから先も、俺達は色々な壁にぶつかるだろう。
 奇麗事だけじゃどうしようもなくて、自分の弱さや醜さを痛感する事も多いと思う。
 けれど、それでも。
 大丈夫だと、言ってくれる人が居るなら。





 君が、傍に居てくれるなら。




  END.



やっちまったのさー。書いちまったのさー。
ペルソナ4。余りにもモエモエしすぎて、とうとう書いてしまいました。
ありがちなネタですけれどね。
主花主の筈なのに、どうにもこうにも主花くさい。そして書き終わってから気付いたのですが、ウチの番長は繊細な俺様性格らしいです(笑)
公式ではっきりとした性格が決まっていないと、それぞれで色々なタイプになって面白いですよね〜。
それだけに書き難くもあるのですけれど(苦笑)
まぁ私は楽しかったのでおーるおっけー!
(’09.6.17)

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