しゃらしゃらと、金属が擦れ合う音がする。
―――鎖、だ・・・・。
しゃらしゃら・・・・しゃらしゃら・・・。
細い金色の鎖が、幽かな音を立ててゾロへと巻きついてくる。
足へ、腕へ、首へ。
ひんやりとした感触が肌を撫でる。
金色の鎖は時折キラリと白く光って。まるで泣いている様だと、思った。
何故か振り解く気にもなれず。
ゾロは自らを縛っていく鎖を、じっと見つめていた。
鎖
「・・・・・夢・・・・・」
目を覚ますと其処は見慣れたGM号の倉庫の中で。
窓からは青白い月光がひんやりと床を照らしていた。
身体が重い。
情事の後にはいつも感じる軽い倦怠感に、軽く息を吐く。
ふと喉の渇きを覚えた。
水でも飲みに行くかと起き上がろうとした身体は、しかし何かに押さえられ動く事が出来ない。
頭だけを持ち上げ、自分の身体を見下ろす。
その目に映るのは、ゾロの腕より少し細く白い、だがしっかりと筋肉の付いた腕。
「コック?」
サンジの腕が、がっしりとゾロを抱え込んでいた。
そっと腕を取り、外そうとするが眠っているはずの男の腕はびくともしない。
その腕から抜け出す事は諦め、ふう、と溜息をつく。
頭を元の位置に戻し、隣で眠る男へちらりと視線を投げかける。
さらさらと床に広がる金色の髪の間から、僅かに顰められた眉が見えた。
サンジは時々、泣きながらゾロを抱く。
涙を流す訳ではない。
瞳が濡れている訳でも、声が震えている訳でもない。
しかし、確かに泣きながら、抱く。
何処にも行くな。俺を置いて行くなと囁きながら。
何処にも行かない。置いて行かないと、追い立てられ朦朧とする意識の中ゾロが必死に答えても、信じない。
「愛してる」と繰り返し、その言葉でゾロを縛っていく。
夢の中の金色の鎖の様に。
決して傷付けない様に。けれど、逃がさない様に。
「・・・・・酷ぇ奴だよ。てめぇは」
置いて行く事など、出来る訳がないのに。
ゾロが再び寝息を立て始めた事を確認して、サンジはそっと目を開けた。
「酷いのはどっちだよ・・・・クソ剣士」
想い焦がれて、やっと手に入れた気高い獣。
初めて手に入った時は嬉しくて、恋しくて夢中だった。
けれど。
孤高の獣は、自分をその瞳に映してはくれない。
キスをしている時も、抱いている時も。
ゾロの瞳はサンジを通り抜け、その先へと向けられている。
何処へも行くなと囁けば、何処へも行かないと答える。
置いて行くなと呟けば、置いて行かないと答える。
なのに翡翠色の瞳は、サンジを映さない。
―――――嘘吐き。
だからサンジは「愛してる」と、ゾロに鎖を巻きつけていく。
あいしてる。アイシテル。囁く度に一重、また一重と。
この美しい獣を逃がさない様に。
真っ直ぐに走る事しか出来ない獣を、この鎖で繋ぎ止めておく事は残酷な事だろうか。
縛られたままの獣の牙は、いつか折れてしまうのだろうか。
その時、この誇り高く強い獣は死んでしまうかもしれない。
けれど、それでも。
今更手放す事など、出来はしない。
蒼い瞳からたった一粒、透明な雫が零れ落ちた。
青白い月光が窓から差込み、二人を包む。
冴え冴えとした光は、冷たく鋭利な刃となり二人の身体を、心を切り刻む。
朝は、まだ遠い。
END