「んん!今日は宴会だー!」

 高々とグラスを掲げた船長の声を皮切りに、満面の笑みを浮かべたクルー達が口々に祝福の言葉を投げかける。
 その言葉を受け取った航海士は、同じ様に眩しいほどの笑顔で答えたのだった。


Word presented to you.


「眠れないの?」

 しっとりと落ち着いた低めの、しかし女性らしさを含んだ声がそっと背後から掛けられる。
 振り向かなくても分かる。肩にかかる長さで真っ直ぐに切り揃えられた髪は、今頭上に広がる夜空よりも黒く、星にも負けないほどの仄かな輝きを纏って白く滑らかな頬を縁取っているだろう。そして知的な光を放つ暗紫色の瞳は優しさを湛え、口元は緩やかな弧を描いていることだろう。
 そう言えば、とある国では紫は最も高貴な色とされていたという話を聞いたことがある。掛けられた声に相応しいとは言えない思考に、くすりと笑う。

 さあ、これで背後の人物は不思議そうに首を傾げたはず。

 ゆっくりと振り返ると、其処には予想通りの表情と反応を示している一人の女性。ちょっとした悪戯が成功した子供のような気持ちになって、ナミは再びくすくすと笑った。
 ほんの少し片眉を持ち上げたロビンだったが、機嫌良く笑うナミにつられて直ぐに穏やかな表情に戻る。

「楽しそうね?」
「そうね、気分は上々よ。・・・・皆は?」
「起きているのは貴女と私。そして見張りのチョッパーくらいかしら」

 そう、と返したナミは視線を夜空へと戻す。
 仄かな光を受けて煌く琥珀色の瞳は星でも月でもなく、もっと遠いものを見つめていて。何故か引き止めなければと、ロビンは何度か口を開閉させる。
 けれども相応しい言葉は浮かんでこず、結局口にしたのは既に一度伝えてしまった言葉。

「誕生日おめでとう。ナミちゃん」

 もう言ってもらったわよと、笑みを含んだ答えが返ってくる。
 まったく、いざという時の自分の口下手さには呆れてしまう。内心苦笑したロビンだったが、戻ってこない瞳にやはり言葉は見つからなくて、おめでとうと繰り返した。

「ねえ、ロビン」
「なぁに?」

 瞳は空に向けられたままでも、緩やかな声は自分のもとに降りてきて。
 幾分ほっとしたロビンは次の言葉を待った。

「私、今まで誕生日って人に祝ってもらう日だとばっかり思ってたの」

 でも違うのね。

 そっと伏せられた瞳と呟かれた否定の言葉。むき出しの肩に細い指が添えられる。指先がなぞっているのは、左肩に彫られた刺青。
 寂しげに見える動作は、綻んだ口元と穏やかな声音に裏切られていた。
 意味を図り損ねたロビンが歩を進め、隣に並び立つ。傍らに温かな気配を感じつつナミは言葉を繋ぐ。

「祝ってもらうだけの日じゃなくて。私が、お礼を言う日なのかもしれないなって」
「貴女が?」
「そう。私が」


 戦禍の中分かれてしまった、もう顔も覚えていない女性へ。
         「生んでくれて、ありがとう」

 今は亡き最愛の母親へ。
         「育ててくれて、慈しんでくれて、ありがとう」

 遠い空の下にいる父代わりの大切な人と。
 血の繋がりよりももっと強い絆を持つ姉へ。
         「たくさんの愛情を、ありがとう」

 たくさんの支えてくれた人達に。
 そして今共に居る皆に。
 
         「ありがとう」



 皆のお陰で、今日も私は生きてる。
 皆のお陰で、今日も私は笑ってる。
 皆のお陰で、今日も私は。



 一つ、口にする度に幸せそうな笑顔を浮かべていく。
 最後に大きく腕を広げて空を抱えたナミはロビンを振り返り、ね?と首を傾けた。

「私にも?」

 ナミとは反対の方向に首を傾けたロビンが問い掛ける。
 力強く頷いて、ナミは空を抱えていた腕を自分よりも背の高いロビンの腰に回し、柔らかい胸にぽすんと顔を埋めた。

「もちろんよ。ありがとう、ロビン。これからもよろしく!」

 弾んだ声は本当に幸せそうで。答えの代わりに目の前の鮮やかなオレンジ色の髪を撫でる。

 守りたいと心から思う。この笑顔を。この純粋な心を。
 来年も再来年も。この先ずっと。
 今日という日が来る度に自分は言葉を贈り、そして言葉を貰うのだ。


 それはとても。
 とても幸せな予感。


            Happy birthday NAMI! Visit you ..a lot of happiness...


「それなら貴女の村にも手紙を送れば良いのに」
「それは駄目」
「どうして?」
「私が手紙を送るとしたら、書き終わった世界地図と一緒になのよ!」

 だからそれまでは、たくさんの愛しい思いをこの胸に抱いて。
 真っ直ぐに進んでいくと、誓う。

 END


2008年ナミ誕〜!
サイト開設したての時に我慢できずにナミさん誕生日SSを書いてしまったことが悔やまれます(笑)
なので今まで皆の誕生日に出没していたゾロは居ません。
代わりに女の子ばっかりでものっそ楽しかったです。
そして、夜の船上で二人で会話させるのが好きなんです(ワンパターンな)

可愛くて強くてどんどん絶世の美女扱いになってきているナミさん(笑)
これからも良い女でいて下さいv
本当に、誕生日おめでとう〜!
(’08.7.3)

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