「あんたが好きよ」
「そうか。俺も好きだぞ」
そう言って貰えたのに嬉しくなかったのは、きっと。
言葉は同じでも、気持ちが違うから。
好き。好きだった。今も好き。
大体、出会いからして良くなかったのよ。
お姫様のピンチに駆けつける王子様なんて柄じゃないくせに。
何時もの様にみかん畑の世話に来て、何時もの様に其処に寝ている奴を見つけて、溜息を付く。
水、ぶっ掛けてやろうかしら。何よ。平和そうに大口開けちゃってさ。
何となくムカついて鼻をつまんでやると「ふがっ」とか間抜けな音がして、ちょっと笑える。
ホント、船の上では役立たずよね、コイツ。
あれよね、ギャップ。
ホント、役立たずのくせにいざって言うときにね、あの頼りがいは卑怯だと思うわ。
バギーのアジトで、アラバスタで。
直前まで居なかったくせにピンチのときに飛び込んできて庇ってくれるなんて、あんた一体何処のヒーローなのよ。
そうね。ビビの時も飛び込んで助けたわね。
あれだけ警戒してたロビンも倒れたときに迷わず支えてたわ。
でも彼女達は一回だけ。私は二回。
そんなくだらない違いに、ちょっと嬉しくなってたなんて馬鹿みたいよね。
あんたがいけないのよ。見かけによらずナイトな奴。
だからうっかり勘違いしちゃったんじゃない。
これが、恋なんじゃないかって。
「あんたが好きよ」
「そうか。俺も好きだぞ」
顔色も変えずに返事してくれちゃって。
あんなに嬉しくない返事、初めてだったわ。
同じ言葉なのに、気持ちは違いすぎて。
あの後、私がちょっとだけ泣いたの、あんたは知らないでしょ。鈍感だもんね。
でも、それで気付いたのよ。
これは恋だったけど、恋じゃなかった。
悔しいからこれは私だけの秘密だけどね。
「いい加減起きなさいよ。これから水撒くのよ。濡れても知らないわよ?」
私の呼びかけに、少しだけ眉を寄せてゆっくりと目を開く。それから子供みたいに目を擦って起き上がる。
うん。その動作はちょっとだけ気に入ってるわ。
「ナミか・・・・」
「私よ。これから水撒くの。退いてよ」
「ああ・・・・悪かった」
寝起きの時は、何時もより少し素直なのよね。
軽く伸びをして立ち上がった背中に、そっと声を掛ける。
「あんたが好きだったわ」
過去形の告白。
「そうか。俺は好きだぞ」
現在進行形の返事。
やっぱりそうくるのね。
溜息を付いた私の頭を撫でて、そのまま立ち去ろうとする。
でももうちゃんと気付いたから。その返事は悲しいものじゃないの。
「ゾロ!」
呼びかければ振り向いてくれる。もう、その事に苦しくなったりはしない。
「でも、あんたのことが好きよ」
「ああ。俺も好きだぞ」
その返事はとても嬉しい。
だって、同じ言葉で、同じ気持ち。
大切な、仲間。
大切な、家族。
「私、いつかルフィに告白するわよ」
そして、本当の恋。
「そうか。頑張れよ」
笑った顔はとても優しいもので、とても愛しい。
アンタの事が好きだったわ。
―――あれは恋だったけど。
そしてアンタの事が好きよ。
―――恋じゃなかった。
気付くまでの間は苦しかったけど。
それも今は愛しい思い出。
密かに笑みを零しながら、勢い良く水を撒く。
キラキラと光る水滴が綺麗だと、素直にそう思えた。
END
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