触りたくなった。から、抱きしめてみた。
きっと2秒後くらいには刀で首筋を狙われると思っていた。けど、されなかった。
それがあまりにも不思議でゆっくりと顔を上げてみれば熱があるみたいに赤いゾロの顔。
ありえないのにそれを可愛いと思ってしまった。だから口と口をくっつけた。




「いい加減にしやがれこのクソコックっ!!」




今度こそ、斬りかかられた。







それはきっと恋の祝福







「もー、どうしていっつもサンジとゾロは喧嘩ばっかりすんだ?」
仲良くしなくちゃダメじゃないか。とプリプリ頬をふくらましながらチョッパーがサンジの額にペタリとバンソウコウを貼る。
どうして、もなにも今日のは喧嘩じゃない。と言おうとしたけれどその理由を聞かれるのは流石に少し困るので何も言わずに目をふせた。
それにサンジはこんな風にチョッパーにお節介を焼かれるのが実は嫌いではない。
ちょこまかと動く仕草も重そうに揺れる頭も褒められれば忽ち口の悪くなる所も全部、言葉にこそしないが可愛いと思っている。
(可愛い?じゃあ俺がアイツに対して持ってんのもこんな感情か?)
ではゾロにもそれと同じ感情を持っていたのだろうか、と一つのもしかしたら結論に向かうかもしれない案にサンジは腕を組む。
確かにチョッパーを見ていると時々触って撫で回したくなる。それは所謂癒しのためだ。もしかしたら自分はゾロにもそんな事を求めていたのかもしれない。
癒し。あの男にこそ一番足りない言葉だと思うのだけれど。
「わわっ、なんだサンジ!くすぐったいぞー」
「んー、やっぱ何か違うな・・・」
救急箱を直すために背中を向けたチョッパーを抱きかかえてサンジはその帽子に顎でゴトゴトと何度か振動を送る。
戸惑ってはいるものの大した抵抗もせずにくすぐったそうに笑うチョッパーはやっぱり可愛いと思う。
でも違う。あの時ゾロに触れたときとは何かが違うし、ましてやチョッパーに親愛以外のキスをしたいとは思わない。
では何故、ゾロにはあんなに触れたいと思ってキスをしてしまったのか。
そもそも何であそこでゾロはあのタイミングで顔を赤くしたのだろうか。さっさと斬りかかってくれさえすれば自分だってあんな、キスなんてしなかったのに。
自分でも酷く勝手だと分かる事を考えて息を吐けばチョッパーが首を傾げてサンジを見上げる。考えすぎで少しだけ腕に力が入っていたらしい。けれどチョッパーはサンジを責めたりしない。
むしろ謝って肩車をしてやれば返って来たのは嬉しそうな声。
どうやら視界が一気に高くなって嬉しかったようだ。
やっぱり可愛い。でも、それでも当たり前にキスしたいとは思わない。


「なぁチョッパー、お前が触りたくなんのってどんな奴?」
「え?うーん・・・よく分かンねぇけど俺はドクターとか皆には触りたいぞ!」
「じゃあアレだ、そいつら全員とキスしたいと思うか?」
「そんなわけねぇだろー」


少し笑いを含ませながらチョッパーがサンジの腕の中で身を捩る。
ぬくもりを知らずに育った彼は、人から与えられるそれに聡い。
きっと、誰よりも。







「キスは"特別好きな奴"にだけするもんだぞ!」







そんなの一番サンジが知ってるんじゃないのか?と顔を覗き込まれて思わず何も言えずに目を見開いてしまう。
だって目からウロコが出るくらい驚いた。というか目が覚めた。
そうだ。どうして気付かなかったのだろう。
触れたくて、抱きしめたくて、唇を重ね合わせたくなる。
そんなの恋に決まってる。今まで自分が幾度となく重ねてきた感情だ。
ただ少し、相手が予想を超える相手だったせいで全然気がつかなかった。


「えー・・・でも相手アレだぞ?よく考えろ自分。今ならまだ・・・」
「どうしたんだ?サンジ。わわっ、急にしゃがんだらオレ落ちる!!」


やーめーろー、と頭上で聞こえる高い声さえもどんどん聴こえなくなるくらいにぐるぐると思考を混沌の世界に落としていく。
自分がゾロを好き。よりにもよってあんなに気が合わないと思っていた相手を、だ。しかもゾロも自分も当然男同士で。簡単に信じられることではない。
それなのにどうした事か胸を満たすのはつっかえの取れた、どこか暖かくも感じる穏やかさ。
ありえないと笑い飛ばすなら今しかない。今しかないのにどうしてもそれが出来ない。だって、自分はこんなにもゾロの感触をまだ鮮明に覚えてしまっているのだから。


「とりあえず・・・決意表明でもしてくっかな」
「決意?何を表明するんだ?」
「まぁ、ここがラブコック様の腕の見せ所。ってな」
「け、喧嘩はしちゃダメだからな?!」


心配して両手をパタパタ動かすチョッパーを出来るだけ優しく降ろしながらサンジは片目をつむって「大丈夫」とその頭を撫でてみせる。
自分だってまだこの感情をきちんと信じられていない。でもよく考えれば考えるほど、答えを否定すれば否定するほど、あの馬鹿が愛しくて仕方が無いと思うから。
それに抱きしめられて、顔が赤くなったゾロ。
その意味をあの男はきちんと理解しているだろうか。
「いや・・・してねぇから俺が教えに行ってやるんだな」
自分のことを棚に上げて思わず笑えば不審そうに見ていたチョッパーがそれでもつられて笑ってみせる。
可愛い。
でもやっぱりキスしたいのは、あの男だけ。


「ありがとな、ドクター」
「??バンソウコウがそんなに嬉しかったのか?」


不思議そうな顔をしているその頭をもう一度撫でて部屋を出れば爽やかな風がサンジの髪を遊ばせる。
今頃ゾロは何処にいるだろうか。自分との事が少しでも気になって眠れて居ない。なんてそんな事が万に一つでもあったならきっともう想いを告げるどころでは無くなって押し倒してしまうかもしれない。
だって、優秀なドクターいわくこの気持ちは"恋"だから。
「まぁ、覚悟してろやクソマリモ」
問題は山ほどあるはずなのにどうしてだか堪えきれない笑みを携えてまずは甲板の方に歩いていく。







身勝手な恋の始まりを責めるように日差しがサンジをきつく照らした。
 


7万HITという事で、フリー配布していらっしゃったので掻っ攫って参りました。
私的に大好きなくっつく寸前!
ニチカさんの文章は暖かくて雰囲気に溢れててでもちょっと笑える。みたいな。 
憧れです(><)

7万HIT本当におめでとうございますー!
そして素敵小説をご馳走様でした!


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