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貴方の為のLiebesgruss


「おや!何やら良い香りがしますね!」
「あ?あぁ、さっきまでケーキ焼いてたからな」


これからどんどん夕焼けへと向かっていく時刻、それでも席を明け渡す気はないらしい太陽の光はサニー号に目に痛いほどの光を与えている。
そんな船内、我が城であるキッチンに突然現れた来訪者にお前も食っただろ?と顔を上げずに言えばその味を思い出したのか嬉しそうな称賛が返って来てサンジはそれに酷く満足そうに頷いた。


面倒なことばかりが起きた化け物屋敷から抜け出して数日。ずっと船長が求めて止まなかった音楽家として入団したブルックの手には今日も隠し刀の杖とバイオリンが携えられていて彼がどれだけその二つを大切に思っているのかが窺い知れる。
今までなら決して聴こえることのなかった船内に響く美しい音楽。それはクルーの心を穏やかに満たし、時に懐かしい故郷を思い出させた。
そしてサンジもその心地よさは嫌いではなかった。
元々バラティエに居たときはよく音楽を聴く方だったし音楽に触れているといつだって自分の知らない自分に出会う気がしていた。
しかし今は何となくその音色を聴きたいとは思わなかった。心が妙に荒れていて音楽を愉しむ気にもなれないのだ。


「それにしても・・・彼はとても良い人ですね」
「彼?」
「剣士さんですよ!彼は実に強い」


ああいった人を気高いと言うんでしょうか、と突然言われた言葉と名前に思わず眉根を寄せればブルックが悪びれる様子もなく差し出された紅茶を啜る。
ロロノア・ゾロ。この船の戦闘員で馬鹿なクソマリモ。
サンジはその男が嫌いだった。出会った時からずっと。
今日は、特に。


「いや、せめて私があと50若ければ口説いていた所です!」
「・・・・・・・・・何の冗談だ」
「いえいえこれでも私若い頃は中々の美男子でしてね!ヨホ、ヨホホホホ!」


何の脈拍も無くとんでも無い言い出したブルックの意図が分からなくて指でシンクを定期的に叩けばそれに合わせるようにブルックが足でリズムを刻む。
タップを踏むような靴でもないはずなのに床と摩擦して起こる音は軽快で、それでいて優しい。
どうすればそんな風に踊れるのか。それを不思議に思ったけれどサンジは何も聞かなかった。心の苛立ちがどんどんと増していく。
見つめた先にはブルックの笑顔。楽しそうなその口元がとても嬉しそうに見えるのは自分の勘違いだろうか。


「やはり貴方のご機嫌が悪い理由は剣士さんでしたか!」
「・・・・あぁ?」
「そして剣士さんの機嫌が悪い理由は貴方!この連鎖、まさに恋ですね!」
「おい、何勝手なこと言って・・・」
「口説くというのはほんの冗談です。あぁ、恋とは何て素晴らしい!」


人の話も聞かずにくるりとターンを決めて帽子を上げる様はいつもの彼とはまるで別人で、その恥じらいの無い動作と言葉に怒りも忘れて何故かこちらが恥ずかしくなってくる。
確かに今日は朝から機嫌が悪かった。ゾロと言い合いをしたからだ。
しかしそれはいつもの意見の不一致であって特別な物ではない。
それに今、恋とブルックは言っただろうか。
何と馬鹿なことを言うのだと思う。だって自分達はそんな甘い関係なんかではない。
いつも喧嘩ばかりをして、今日だってくだらない事であと一歩で血を見るような状態だった。
サンジはゾロが嫌いだ。きっとゾロもサンジを嫌っている。
そのはずだ。そのはずなのに。
こんな風に顔も見たくないと思っているのに、誰かに少しつつかれたくらいでムキになってしまう時がある。
自分以外の誰かと話して、笑っているのを見るとどうしようもないくらいに苛立つことがある。
恋仲ではない。恋仲でなんてあるはずがない。それなのに。
好きだとか、嫌いだとかそんな感情を煩わしいと思ったのなんて、これが初めてだった。


「別に・・・そんな関係じゃねぇよ」
「・・・人を愛するという事は何よりも幸せな奇跡ですよ」
「奇跡?」
「言葉にしてもしなくてもそれは尊い。・・・大切にしてください、人を愛せるこの時を」


それだけを告げて小さく微笑むブルックにサンジはふと彼の遠い過去を見る。
悪魔の実の効力でこの世に生き返ってから50年と少し。
彼も昔、そんな経験をしたことがあったのだろうか。
くだらない事で言い合って、それが愛なのかも分からないほどに情けなくなって。そんな恋を、彼はしていたのだろうか。
そしてその上で彼はこの、自分でも分からないような感情を恋と呼ぶのか。
それならば、もしかしたら。







「なんか一曲、聴かせろ。出来れば・・・とびきり甘いやつ」







この感情は、尊いのかもしれない。










「喜んで・・・・ゲップ!あ、失礼!」
「台無しだこのアホ!!!」


ゴトンッ、と大きな音を立てて蹴りつければ口だけで謝罪をするブルックが楽しそうに笑ってご自慢のバイオリンを構えてみせる。
かなり気はそがれてしまったけれど口元には抑えきれない笑みの形が浮かんでしまってどうにも締まらない。
腹が立って仕方が無くて、同じ時間を過ごしたくないのに同じ場所には存在したくて心が高鳴って。
やっぱりどうかしている、と下げた目線の先には演奏が終わった後ブルックに振舞う予定の紅茶と、あと一つ。




「では、一曲お聴き下さい。愛を込めて」




流れ始めた音楽に合わせて空気が静かに揺れ動く。
全ての疑問を捨ててただ今は、ゾロに会いたいとそう思った。


 


「Yellow&Green」のニチカ様から頂きましたー!
70707キリリクですv
リク内容は「サンゾロ前提ブルゾロ」(笑)
いいですよねー・・・ブルック。素敵おじいちゃん。50巻のブルック過去を読んでうっかり惚れそうになり、ニチカさんの小説を読んでやっぱり良いよね・・・とうっとりしたり。
ニチカさんサイトをブルックサイトにしようという計画とは別なんですが、やっぱりこれからもブルック書いて欲しいなーと思いました(笑)

ニチカさん!素晴らしい小説を本当に有難うございましたー!!


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