君の場所
「ゾ〜ロ〜〜〜〜!!」
見張り台で寛ぐ(一応見張りという名目ではある)ゾロの元に、浮かれきった声が届く。
言わずと知れた、麦わらの船の名コック、ゾロ一筋の(一見そうは見えないが)金髪ぐるぐるマユゲ、サンジである。
こんな時間にめずらしい、とゾロは内心呟く。
いつもなら、この船の美女2人の為に特製スウィーツを作っている時間だ。
もしくは今日は………。
「よっ!」
ひょいっとひよこ頭をのぞかせ、ゾロに向かって手をあげて見せたサンジに、ゾロは疑問を率直に投げかけた。
「めずらしいな」
「ああ、今日は特別にな」
軽い身のこなしで見張り台に降り立ち、ゾロの隣に腰を下ろす。
「よし、寝ろ」
突然そんなことを言い、己の膝をぽんぽんと叩く。
「は?」
「誕生日だからな」
「はあ?」
にこやかに爽やかに告げるサンジだが、言ってる内容がゾロにとっては意味不明だった。
誕生日。
確かに今日は、ゾロの誕生日だ。
日付が変わると同時におめでとうと言ったコックは、そのままキッチンでゾロを押し倒した。
何故だか主役がおいしくいただかれてしまった訳だが、幸せそうな顔のサンジにゾロも悪い気はしなかった。
朝起きると、船長はじめクルーが皆、おはようの挨拶とともに祝いの言葉をゾロに投げかけた。
今日の夜は宴だと、サンジは言っていなかっただろうか。
いつもクルーの誕生日には晩餐だ。豪華な料理と大量の酒。
コックであるサンジは朝から、いや、ものによっては数日前から宴の為に仕込みをし、当然当日は忙しく働いている。
そんなこいつが、ここにいていいのだろうか、と。
なぜわざわざ「寝ろ」と言われるのか。
いつもは見張り台で寝ていると、寝ぐされマリモと蹴りを入れるくせに。
しかも、なぜ自分の膝を叩いているのか。
これはあれか、膝枕で寝ろということかと、ゾロは首をひねった。
「俺からの誕生日プレゼントだ!」
ますますゾロは、首の角度を深くした。
「膝枕がか?」
「おう。欲しいものがあるんなら、どっか島についたら一緒に買いに行こうぜ。けど今は海の上だからな」
「別に欲しいもんがあるわけじゃないし……」
「何だよ、人の好意はありがたく受け取るもんだぜ?」
「それよりお前、こんな所にいていいのか?」
「何、はぐらかしてる?そんなに膝枕が嫌か?」
「別にそういう訳じゃねェけど……」
「じゃあなんだよ」
「いや、今日は……忙しいんじゃねェかと思って……」
「問題ねぇ」
サンジ曰く、今は他のクルーが今日の為のごちそうを作っているらしい。
何かものを買うことができなかったので、そのかわりに、ということだ。
おせっかいなナミの提案だった。
「せっかくゾロの誕生日なのに、サンジくんが忙しくしてて一緒にいられなかったら、ゾロが寂しがるでしょ?
だからサンジくんは、前日までにできるだけ腕をふるって仕込みをして、当日は私たちができるだけ準備をする。
そうしたら全員からのプレゼントになるでしょ?うん、我ながら名案だわ」
だそうだ。
自分の為の宴。
それは照れくさくて恥ずかしくて慣れないけれど、ゾロは自分に向けられる気持ちに、あたたかいものも感じていた。
いつもイベントがある時は喜々として動き回っているサンジだが、今日は膝枕を譲らない。
こいつがそう言うんなら別にいいかと、ゾロは素直にサンジの膝に頭を乗せた。
男の、しかも強靭な足技を繰り出すモノだ。柔らかいはずがない。
しかし、優しく髪をなでられながら身を任せるのは悪くなかった。
目を閉じると、波の音やクルーの笑い声が聞こえる。
「平和だな〜」
「まぁな」
「気持ちいい?」
「ああ」
「じゃあ寝ちまえよ」
「……なんだよ、普段は寝るなって言うくせに」
「今日は特別だから」
「誕生日だからか?」
「おう」
うっすらと目を開けると、幸せそうな、嬉しそうな、でもどこか寂しそうな顔でサンジがゾロを見つめていた。
「……なんだよ」
「眠っていいから」
髪を撫でる手はそのままに、もう片方の手でゾロの目を塞ぐ。
「何も起こらないから。天候もナミさんのお墨付き。敵船も海軍も今日は休業日」
「は?何言ってんだ?」
「なーんにも心配いらないし、万が一何かあったとしても、俺が守ってやるから」
「だから何を……」
「ひとりだけで、がんばらなくてもいいから」
それは、子供に対するような言い方だった。
だがゾロは、まるで図星を指されたかのように体を震わせた。
「何にも気にせず、安心して眠っていいよ。……お前、ちっとも寝てないだろ」
「……何、言ってんだ。………毎日寝てる俺を蹴り起こすのはどこのどいつだよ」
「でも、寝てない。……あんたさ、いつから熟睡ってしてない?この船に乗ってから?海賊狩りって呼ばれるようになってから?」
水仕事をしているせいで、普段は少し冷たいサンジの手は、今はゾロの体温とひとつになっていた。
その手の心地よさに、サンジが纏うあたたかい空気に、言うまいと思っていたことが、ぽろっと口をついた。
「…………いつから………気付いてた?」
「んー……結構前かな。あんたと、寝るようになってから」
「……そうか」
「知られたくなかったんだろうけど……」
「…………てめぇ、心配するだろ?」
「当然。もちろん、他の皆もな」
ゾロは、海に出てひとりで生きてきた。
いつの間にか『海賊狩り』だなんて呼ばれるようになったが、賞金首を狩るということは、その仲間から狙われることもある。
いつ報復が来るか、いつ今度は自分が狙われるかわからない。
『海賊狩りのゾロ』として知られるようになってからは、海賊狩りを倒して名をあげようとする者にも狙われた。
だから、気を抜けなかった。
たとえ眠るときでも。
わずかな音や気配で目を覚ますし、眠れない時期もあった。
ルフィと共に行動し、船に乗って仲間が増えても、それはかわらなかった。
いつの間にか浅い眠りで体力を回復する方法を体が覚え、深く寝入ることはほとんどなくなった。
そんな眠りではいずれ支障をきたす可能性もあったが、一度その眠りを覚えると、不安になった。
もし深く眠ってしまった間に、何かあったら……。
仲間ができてこその恐怖だった。
手放したくないと思うからこそ、ますます眠れなくなった。
「他の奴らには、言うな」
「……そう言うと思った」
目を隠されているのは幸いだった。
サンジは、他人の痛みを己のことのように感じる性格だ。
だから知られたくなかったし、知られれば悲しい表情を見せるのはわかっていた。
今はきっと、そんな顔をしている。
そんな顔を見て、平然としていられる自信はゾロにはなかった。
「なぁ、俺のこと、信用に値する仲間だと思ってる?」
サンジは、わざわざ言葉で確認したがる。
それによって、不安を取り除こうとするのだ。
だからゾロは、できるだけ答えてやろうと思っている。
「ああ。思ってる」
「俺のこと、好き?」
「……ああ」
「じゃあ……」
視界を塞がれているせいで、サンジの声がよくわかる。
声に滲み出る、感情が。
「何も、気にしなくていいから。俺が、お前のかわりにここにいるから。だから」
少し翳ったと思うと、柔らかいものが唇に宛がわれた。
いつもの、煙草の味がした。
「だから、ゆっくりと、おやすみ」
じわりと、何かがこみ上げ、広がっていった。
髪を撫でる手は安心感をあたえてくれ、ゾロは睡魔に引き込まれていく。
手を伸ばすと、目に当てていた方の手でそれを取られる。
優しく指を絡ませ、温もりを分け合う。
あまりに久しぶりにやってくる、吸い込まれるような眠りに、ゾロは身を任せた。
今まで決して眠れなかったのに、サンジがそれをもたらした。
パタンと、力の抜けた腕が落ち、一筋だけ涙のあとを残し、ゾロはサンジの膝で深い眠りに落ちた。
その寝息は穏やかで、普段の眠り方とはまるで違っていた。
「ったく……戦ってる時だけじゃなくて、普段から無茶してやがったのかよ……」
抱き合って疲れ果てて眠った時も、こんなに深いものではなかった。
涙のあとは見えるものの、穏やかな眠りにサンジは嬉しくなった。
ここで眠ったということは、ちゃんとゾロが己を信じてくれている証だと思った。
それは、何にもかえがたい大切な事実。
これからは、己の隣がゾロの眠る場所になればいいと、心の底から思った。
ゾロの頬に指をあて、残った滴を拭う。
「お前にプレゼントって思ったのに、俺がプレゼントもらってるみてぇだな」
ゾロが受け入れてくれたことを、心の底から嬉しいと思った。
この場所は誰にも譲れない。
「俺の、特等席だからな」
答えるように、わずかにきゅっと手を握られた気がした。
ゾロが幸せそうに眠っている。
サンジにとって、なによりも大切な……。
それは、自分の居場所。
「MARINE BLUE」 龍馬ひかり様宅よりv
DLFとなっておりましたので攫って参りましたv
本当はですね・・・義兄弟シリーズのお話もDLFとなさっていらっしゃったんですが・・・・。
全部掻っ攫うのは余りにも図々しいかなぁと物凄い努力の末に何とか我慢した私です。
まぁしかし全部我慢すると言う事は出来なかったので、一番好きなこのお話を頂いて参りましたよ〜v
凄く凄く優しくて暖かい気持ちになるお話ですvv
大切な仲間のために頑張るゾロはきっと半分は無意識なんじゃないでしょうか。
その半分を分かってて、誕生日に「安心」を贈るサンジ。
もうバカップルめ!と思う前に、愛しくて思わずホロリときてしまいました
あああこんな二人が大好きなんです・・・・!!
愛人様v素敵なお話を有難うございましたー!!
大好きです・・・!!!
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