いつか。この恋を諦める事が出来るのだろうか。 あの日も今日と同じ様にサンジの誕生日であり、女性陣は彼の代わりに料理に勤しみ、男性陣は引き篭もって何やら準備しており、ゾロは大口を開けて昼寝をしていた。そして恐らくこの後はあの日と同じ様に皆がサンジを祝ってくれて、済し崩しに宴会へと雪崩れ込むのだろう。その流れの中で瞬間的に「ああ、俺はコイツが好きなんだ」と悟ったのだ。 何故好きになったのかも、何処が好きになったのかも。 何度、愛しさを覚えただろう。 何度、苦しみを味わっただろう。 何度、抱き締めたいと思っただろう。 それでも今の関係を壊したくないが為に想いを告げると言う選択肢を持たないサンジは、募る想いを閉じ込め抱え込むしかなかった。 いっそ本当に狂ってしまえばどれだけ楽だっただろう。けれどそれは己の夢に防がれた。 「嫌いだと、言ってくれれば良いのに」 そうすれば泣いて泣いて、どれだけ苦しくてもこの想いを捨てる事が出来たのに。 自身に無頓着なゾロは、一挙手一投足が他人にどれだけの影響を与えるかを知らず、無自覚にサンジを惹き付け続ける。 同時に、閉じ込めた想いが苦しくて、息が詰まりそうになる。 ゾロがゾロであるが故に恋に落ちたサンジには、ゾロがゾロであり続ける為に想いを伝える事が出来ないからだ。 畢竟、ゾロが困難だと言う結論には至るのだが。 眠り続けるゾロの傍に立つサンジは、胸に抱え込んだ温かい、けれど重く圧し掛かるモノを持て余して、シャツの胸元をきつく握り締めた。 葛藤し揺れ動くサンジの心を映したかの様に、潮風に煽られた雲が千切れながら蒼穹を流れて行く。 陽に照らされ、雲に翳り。同じ表情でありながら変化を続けるゾロの顔を、飽く事無く眺める。 ゾロがゾロとして生きて行く様を、サンジがサンジとして生きて行きながら、静かな心で見届けられる様に。 「・・・・・おはよう」 「もう昼過ぎだ。寝腐れマリモ」 いきなりの覚醒に動揺した内心を隠すために、努めて平静を装ったサンジの顔は些か引き攣っていたかもしれないが、ぼんやりと見上げるゾロは半分寝ぼけていて気付いていない様子だった。そうか、と短く返すだけで今にも再び寝入ってしまいそうだ。 「ま、いいけどな。夕方には起きろよ」 「おう。・・・・・いい天気だ」 「ああ、そーだな」 天空に広がる蒼にゆるりと頬を緩ませたゾロが呟く。例え嵐だろうと寝る時は寝るゾロであっても、矢張り陽光の下での昼寝は気持ちが良いのだろう。そう何気なく相槌を打っていたサンジは、次の言葉で先刻ようよう納得させた心を再度波立たせる羽目になった。 「なんつー厄介な・・・・」 眉を寄せてがしがしと頭を掻き毟ってみても、緩む口元はどうしようもない。 いつか、この恋は諦める事が出来る。そう納得したはずであったのに、可能性は一欠片も無くなってしまった。 苦しいけれども、恋しい。 これから先、今日と同じ様に自分は揺れ動くだろうけれど、それも恋の楽しみだと知ってしまった。 「ま、それも悪くないかもな」 なにせ相手は困難なゾロであるのだ。手に入れるにせよ玉砕するにせよ、はたまた何時までも身動きが取れずに密かに想い続けるにせよ、退屈しないことだけは確かだろう。 苦笑するサンジの頭上に広がる蒼穹が濃紺に染まり、賑やかな宴が始まるまであと少し。 サン誕、だー!! 今更ではございますがね・・・。あんまり祝ってもおりませんがね・・・・。 現時点、原作では一体何処で何をしてらっしゃるのかは不明ですが、ゾロと一緒に復活を心待ちにしております。 サンジ、お誕生日おめでとうございました。 (’10.3.17) 戻る |