分かりにくい君の分かりやすい愛









最近民営化された奴が封筒を届けてきた。
判子がいるという結構重要書類扱いのやつだ。
心当たりがないが、宛名は確かに自分宛だったので、判子を押して受け取った。
何度もその封筒を見回しても、さっぱりだ。
ばりばりと指で裂いて開けてみると、小さなカードが出てきた。
「taspo」

はぁ??


ゾロの写真が貼られた免許証の大きさのカードをじっと睨みつける。
これは、見たことがある。
TVでも散々騒いでいる例のアレだ。
コレがないと死活問題の奴の顔が浮かんだから、忘れようもない。

「なんでこれが、ここに?俺は頼んでねぇぞ。」
ぴらぴらとカードを揺らして、犯人に思い当たる。
如何にもこういう事に労力を惜しまなそうな奴だよ。

俺には必要ねぇし。

そのままゴミ箱に捨てようとしたまさにその時に、メールの着信が鳴った。
この音はあのバカだ。

ゾロはテーブルの上の携帯を手にすると画面を見た。
メールが届いたと知らせる小さなアイコンが点滅していた。
受信ボックスをみれば、確かにサンジからだ。

何だかメールの内容が分かるような気がして、ボタンを押す指がゆっくりとなる。

空白の件名。
簡潔な文。


―――――届いたか?


だから?
だから、なんだというのだ。
でも、それだけで、後数秒でゴミ箱へ落ちるはずだったカードが、指先から離せない。
この薄っぺらいゾロには何も関係ないカードが、今は酷く重い。

そう思う自分がバカらしくて、テーブルにそのカードを投げた。
自分だけ申し込めばいいのに、なんで俺を巻き込むんだろう。

サンジの心は、いつもゾロに分かり辛い。
きっとサンジの頭の中では、道筋のあるだろう話も、ゾロに届くときには、半分くらいなくなってると思う。
それは、考えすぎるサンジが話してる途中で、どんどん話題を変えてしまう所為も多分にあると思う。
ゾロがそんなサンジの話を上手く聞き取れないことに問題があるのも事実なので、仕方ないことかもしれない。

だが、これの示すものの意味は直ぐ分かった。
タバコとあいつとは、ゾロの中では直結しており、法改正の今、サンジにとっての生命線もこれに繋がっていた。つまりは、サンジはゾロにも同じ荷物を負わせたいのだとそう思った。
タバコを吸わないゾロがこれを持つのは愚の骨頂である。それを敢えて持たせて、ゾロの態度を試しているのかもしれない。コレとタバコとサンジ。
もし、これをあっさり捨ててしまったとしても、サンジはきっと酷いよと言いながら笑うのだ。
俺を愛してるなら、持っててよとおどけて言うに決まっている。
捨てられても平気な顔して、心の奥底で傷ついて泣くのだ。


全く分かり辛い。
なんでそんな些細なものでゾロの愛情を計ろうとするのか、それがゾロに分からなかった。
ゾロがサンジを認めて、受け入れて時点でそれは揺るぎようもない事実で確固たる位置にあるというのに、サンジはその後も何かとゾロを試すような事をする。
何故、そこまで不安なんだろうかとゾロは思った。
自分がサンジを大切に思ってる確かだし、好きだと思う。
なのに、サンジはいつも不安定だ。

そこまで考えてゾロは、ああそうかと思った。
不安定ということは不安なのだ、あの馬鹿は。
何故不安かというと、ゾロが見えてないのだ。
つまりは、サンジはゾロに好かれているという自信がないのだ。

全く、究極のアホだな。

ゾロは溜息を吐きながら、笑った。
呆れたけれど、そんな態度がサンジらしくて好きだと思った。
酷く高慢なのに、臆病で。意地っ張りだ。

その表れがこれだと思えば、小さな青いカードも可愛く思えてくる。
これを捨てないで持ってれば、愛されてるって思うのかお前は。
全く、なんてちいせぇ奴なんだよ。お前は。

カードを指で挟んでひらひらさせて、ゾロは笑った。
目に見えるものに縋るサンジと、そんなサンジを許してしまうゾロと、結局は五十歩百歩なのだ。

財布を手にしたゾロは、カードを入れて部屋を出た。
最初の自販機で、試してみよう。

もしも、面倒で買えないなら、サンジに投げつけて返して暫くは放置だ。
上手く買えたら・・・。

ゾロが約束もなしにサンジの部屋へ行ったなら、きっと驚いたサンジが抱きついてくるだろう。
その時に、さり気に買ったタバコをポケットなり、その場なりに気づかれないように置いて、そのまま帰ろう。
その存在にすぐに気づいて、追いかけてくればよし。気づかなければ、暫くは、口を聞いてやらない。


サンジが仕掛けた事に、ゾロが仕掛けなおしても、構わないだろう。
ゾロは、自分が考えたことにサンジがどう対処するのか、楽しみだった。


あの角を曲がれば、確か自販機があったはずだ。
まずは第一関門だ。

ゾロは手の中の財布とカードとを握り締めた。
心の中は、どきどきとした高揚感に包まれていたけれど、まんまとカードを使ってしまうことが、ちょっと悔しいと思った。


そして・・・・・
ゾロの思惑を吹き飛ばす勢いの大音響のアナウンスに、顔を真っ赤にしながらカードを使ったゾロに、サンジが理不尽で納得な扱いを受けるのは、その15分後である。

 


「Z−espacio」ゆん様から頂きました〜vvv
ゆんさんが日記でポロリと漏らした一言に喰い付いたワタクシ。
そんな我が儘に付き合って下さり、こんな素敵なお話を書いて下さったのです〜!
もう!良い仕事した・・・!自分!!
サンジにベタ惚れなツンデレゾロですよ。サンジはこの後酷い八つ当たりをされるそうですよ。
そしておどおどしながら、機嫌をとるそうですよ!!!!
 
そんな設定を聞いて更に萌えた私です。ああ〜・・・・ゾロラブ〜・・・!!(落ち着いて)

ゆんさん、お忙しい中こんなに素敵なお話を書いて下さって、本当に本当に有難うございましたー!!
(’08.6.14)

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